湯ざめ

今の住まいからそう遠くないところにある銭湯を妙に気に入ってしまって、ちょうど寒くなってきたし、このところ二日開けずに通っている。
少し遅い時間に入口の戸を開けたら、番台の傍に立っているおじいさんと目が合ってしまった。番台の中のおじいさんと立ち話をしていたようだ。衣服を脱ぎながら二人の話を聞くでもなく聞いていると、客のほうのおじいさんは、言葉の端々から東京の生まれでないような気がする。このあたりは北関東や東北の出身者が多い。
湯船につかって、番台のほうをちらと見ると、まだ立ち話は続いている。どちらかというと、ぼくは長風呂のほうじゃないかと思うが、湯船を出たり入ったりしつつ、ふと見ると、まだ話している。そのうちいつまで話しているのか気になりだした。今日はとりわけ寒いし、年も年みたいだし、湯ざめでもして風邪でもひかないといいのだが。
30分程経っただろうか。ぼくが脱衣場に戻った途端、入れ替わりみたいに客のおじいさんは帰って行った。なぜか肩すかしにあったような気分になった。