早稲田通りから神田川のほうに続くだらだら坂を歩いて、ほぼ川にぶつかるところ。
このへんにいろいろとお店があるというのは、つい最近まで、うかつにも見逃していた。
初めて入る店。カウンター席と、奥に小上がりの小体な店。ぼくの他に客はいない。というか、店の人の姿も見えない。
カウンターの中に姿を見せたのが、そうねえ、多分ぼくとそうは違わないくらいの年の男性ひとりだったから、もしかしてこの人は店番?などと少々いぶかしく思いつつ、とりあえず燗酒を頼む。
燗付け器にとっくりを漬けて、程なく、いい具合に温まったお酒を出してくれた。嬉しい。
お通しはスープ餃子。変わったものを出すんだなと思うが、これはこれで悪くない。
黒板の品書きを見ると、お刺身がいくつかあるようなので、選びあぐねていると、先ほどの若い男性(やはり、どうやらこの人が主人らしい)が、お客さんのお土産なんですがと、むろあじの干物を出してくる。
干物をかじりながらお酒を口に運んでいると、今度はやつがしらを煮たものがひとかけら出てくる。その次は、これもお客さんが持ってきてくれたスルメイカでつくったものですが、と塩辛が出てくる。
その間、ぼくはお銚子をお代わりするだけ。
お酒はあさ開。ぼくがいきなり燗酒を注文したので、珍しい客だなと思ったそうだ。ここの店の前にやっていたところでは、お酒の銘柄もいくつか揃えていたそうだが、今置いているのはあさ開だけだという。焼酎を飲む客が多いようだ。カウンターの棚を見ると、ボトルキープの焼酎瓶が並んでいる。
しばらく燗酒をやっていると、二人連れの客がカウンターに座って、やはりチュウハイのようなものを飲んでいる。この冷えるのにねえ、と、ぼくなどは思うのだが。
結局、お銚子を3本頼んで、料理は何も注文せず、勘定は2千円。これは安いのではないか。なんだかフシギな気分を味わった夜でした。