見終わった後の余韻を帰りの地下鉄の中まで持ち込んでしまった。こんなことも滅多にあるものじゃないのだが。
いやあ、まいった。なんたって、出てくる人たちがみんな好人物。田舎の人も都会の人もみんないい人。そしていい話。
好人物が出てくるいい話、というのを映画にしてみました、という映画だ。これは。
この映画を、甘酸っぱい恋の物語であるとか、地方と東京の物語であるとか、そうもいえるのかもしれない。
でも、ここには、そんな物語にありがちな、意地悪な恋敵や、都会の不良たちは出てこない。いや、ぼくなら出してしまいそうだ。そんな欲望にかられそうだ。
この映画は、濃密に田舎と都会を描きながら、決して、田舎にも、都会にも与しようとしない(その点は、ぼくのような地方出身者にとって、見ていて救われるところだ)。
その中で、主人公ふたりの恋が、まるで自明なことのように生まれて、はぐくまれていく。
安っぽい二項対立の仕掛けから、奇跡的に、遠く離れて、成立した映画。劇場を出た後も、余韻が体をつつみこむ映画。こういうのを、ファンタジーというのだろうか。
レイ・ハラカミの音楽もめあてにしていたのだが、淡い水彩(そう、絵の具のスイカジュースの色のように・・・)で、ちょ、ちょっと筆をおいていったような、音のつけ方。この人、音像的にはいつもこんな感じなのか。ハラカミ節っていうか。でも悪くないよ。
最後に、ちょっとだけ演出にリクエストさせていただきますと、バレンタインのチョコレートを買いに町のデパートまで出かけたくだりだったか、主人公のそよたちが、店の中の階段に腰掛けてチョコの品定めをしているシーン。ぼくなら、そよの両膝をぴちっと付けずに、足開き気味で座らせますね。あの時点では。
そよが大沢くんのコートを着ても、いかにも似合わないところなんかは、田舎の子っぽさを出してるなあと思って見てたんだが、やっぱり、根は都会の女の子なんだなあと思った。あれは、だんだん、足が閉じ気味になっていくのがよいんじゃないでしょうか。