8時に起き出して、古新聞、段ボールと空き缶を出す。
コロナ以後に新聞を取るようになったが、油断すると新聞紙はすぐに溜まる。面白そうな記事があっても、後から読み返すことはまずないのだから、理想はその日の新聞はその日のうちに捨てることだ。そうはわかっているのだが、後から読もうとか、後から切り抜こうとか思っているうちに、古新聞が積み上がっていくことになる。
だらだらしていたら家を出るのが遅くなった。上野まで歩いてもいいかなと思っていたが、それどころではない。曳舟から東武線で浅草、乗り換えて銀座線で上野広小路に。
鈴本演芸場の正月初席、11時からの第一部に辛うじて間に合った。今日の入場券は当日売りだけなので、10時半の開場前に行列ができているんじゃないかと思っていたが、思いの外、空席が残っているようである。
場内に入ると、空席が残っているどころか、開演の11時の時点で客席に座っていたのは、ざっと10名程度ではなかったか。鈴本の正月の興行でこれほど客入りが薄いのは、やはり異例なようで、何人かの演者がそのことに触れていた。さすが緊急事態である。
松づくし 三遊亭歌る多一門
歌る多さんと美るくさんの師弟による寄席の踊り。両手と足の指も使って、扇子で松の形を見せる。
落語 柳亭左龍「つる」
落語 三遊亭歌武蔵
北の富士さんの相撲解説。
音曲漫才 おしどり
このコンビは、私は初めて見たように思う。客が少ないのをいいことに、針金細工の撫で牛をいただいた。
落語 桂文楽
先代桂文楽家の年越しから新年の風景の思い出話。当代文楽師は昭和32年に先代文楽師に入門。大晦日は師弟が一緒に紅白歌合戦をテレビで見、元旦には総勢100名余りの一門弟子がわずか9.8坪の文楽家に挨拶に訪れたという。そんな情景が鈴本から程近い黒門町で繰り広げられていたのかと思うと、興趣深い。
落語 春風亭勢朝
漫才 ロケット団
三浦師の真っ赤なスーツが目に残る。
落語 古今亭志ん陽
「酒の粕」からの「他行」。
落語 三遊亭若圓歌
歴代の日本ダービーの優勝馬、総理大臣、高校野球の優勝校等を諳んじる。
奇術 マギー隆司
ハンカチのマジック。
落語 林家正蔵「鼓ヶ滝」
仲入り
紙切り 林家楽一
まず「羽根突き」。客が少ないのでなかなかリクエストの声が上がらない。干支にちなんで「闘牛」。ようやくリクエストに応えて「七福神」。宝船に乗る七福神。
落語 春風亭一之輔「ふぐ鍋」
番組表では一之輔師の前の出番は三遊亭金翁師だが、金翁師は「体調次第での出演」と注記されている。今日は金翁師の出演はなし、ということは、よほど金翁師の体調は悪いのかとお客は思うかも知れない。実際にはそんなことはないらしいのだが、番組の出演順から、一之輔師が金翁師の欠席の理由を説明する役回りになってしまっているのだとか。ちなみに、今日までに当席で金翁師が出演したのは、初日と5日目だけらしい。
浮世節 立花家橘之助
落語 柳亭市馬「かつぎや」
元旦の商家を舞台にした噺。正月二日の夜に枕の下に七福神の乗った宝船の絵を敷いて寝ると、いい初夢を見るという習慣がこの噺の下敷きになっているわけだが、改めて江戸の庶民にとって七福神信仰が馴染み深いものであったことを思う。
私的には、水曜の夜に浅草七福神の社寺を回ったところであり、今日の楽一さんの紙切りでも七福神が出てきたので、「かつぎや」の主人のように縁起をかつぐわけではないが、この符合は嬉しい。そういえば鈴本演芸場の隣は福神漬の酒悦だった。
アメ横入口のじゅらくの前を通りがかったら、料理サンプルのオムハヤシライスに惹かれて昼飯。
その足で稲荷町まで歩いた。時間調整も兼ねて、寿湯に。ここに入るのは初めて。
主に露天風呂と水風呂を往還。まだ早い時間だが、ずいぶんお客が入っている。それなのに水風呂に入っているのが私くらいなのは不思議ではある。露天風呂には大きな柑橘類がごろごろ浮かんでいる。
この寿湯と、根岸の萩の湯、そして向島の薬師湯は三兄弟がそれぞれ経営しているのだとか。銭湯好きには周知なのかも知れないが、私は浴室内の掲示物を見るまで知らなかった。道理で、この三軒の銭湯には通じる雰囲気がある。ただ、私の好みかというと、必ずしもそうではないが。
稲荷町から銀座、有楽町線に乗り換えて、銀座一丁目から豊洲へ。
豊洲シビックセンターホールに。
『アドバンスト・コレオグラフィ vol.2』という催しに来た。副題に「コンピュータによる新しい動きの探求!」とある。
会場配布資料から抜くと、「『アドバンスト・コレオグラフィ』は“動きのサンプリング”によってコンテンポラリーダンスを創作する試みです」とある。情報学の研究者が、ダンスの振付を支援するコンピュータシステムを制作し、そのシステムを使ったパフォーマンスの創作を3人のコンテンポラリーダンスの振付家に委嘱したそうだ。つまり、今日のダンス・パフォーマンスは、研究の一環として行われるものということになる。
vol.2ということはvol.1もあったわけで、私は知らなかったのだが、本趣旨の公演はすでに2017年と2018年にも行われていたとか。
なかなか面白かった。システムを用いた創作のアプローチも三者三様だったと思う。
上演順で一人目の振付家は石渕聡氏(コンドルズのメンバーとか)。コンピュータを創作に使用したということを措いても、ひとつのテーマを持ったダンス作品として成立することを意図した作品だったと思う。そのテーマ自体は特にコンピュータとは関係ないようだったが、ダンサーの動きからは、コンピュータを使用した動きということを振付家がかなり意識して創作されたように伺えた。
二人目の平山素子氏の作品は、ダンサーのカズマ・グレン氏のユニークなキャラクターを前面に立てつつ、ダンサーが実際にこのシステムを体験する状況を舞台上で再現して観客に見せていた。やや楽屋落ち的なところもあったけれど、コンピュータで合成された動きを人間が再現する際の困難な部分やダンサーの感じる困惑までが伝わってきたと思う。
三人目の坂田守氏の作品では、坂田氏本人と岩渕貞太氏がダンサーとして参加していた。最初、二人の身体が重なった状態で現れるのだが、衣装や照明の具合もあってか、まるで二つの肉体が融合した、異形の生物がうごめいているように見えた。その後も、パフォーマンスの中盤あたりまで、二人の身体はどこかで常につながっていた。二人の動きからは、特にコンピュータで合成された動きという印象はなかった。それは、人間とは別の身体性を持った生物の動きと思って見ていたからだろうか。
終演後、豊洲から永田町乗り換え。永田町で数駅乗り過ごしてしまって引き返した。7,270歩。