ラジオで上方言葉で「井戸の茶碗」をやっている人がいる。上方らしい笑いを折々にまぶしながら、しっかりと噺を聞かせる。誰だろうと思いながら聞いていると、笑福亭銀瓶さんだった。世評高い銀瓶師だが、私は生で聞いたことがない。いつか聞く機会があればと思う。できれば上方で。
ところで、江戸が舞台の落語を大坂に移す時、お殿様が登場人物の場合は一考を要する。江戸と違って、大坂に大名屋敷を構えて住まっていたお殿様は少ないだろう。
その点、この「井戸の茶碗」も薩摩の細川公が出てくる噺だが、銀瓶さんは、お殿様が参勤交代の折に大坂に立ち寄ったということにして、上手く処理していた。こういうディテールに気を配っているかどうかの違いは大きいと思う。
昼過ぎに出た。空に雲が被さっている。
隅田川テラスにカルガモが上がっていた。相当近づいても逃げる様子はない。人に慣れているのか、あるいは、まだ人を怖がることを知らないのか。
最初は一羽だったのが、後からもう一羽やって来て、二羽でのんびり草を食んだりしている。この二羽はつがいなのだろうか。
カルガモの写真を撮って遊んで(遊ばれて?)いたら、雨が降り出してきた。
雨を避けて首都高の高架下に入った。ここにいれば雨も気にならない。しばらく高架下を行ったり来たりして、雨雲が通りすぎるのを待つ。
そのうち雨が上がったので、高架下から抜け出した。
桜橋の欄干の上の鳩も、かなり近づいても逃げない。いい度胸である。やはり人を恐れることをまだ知らないのか。
銭湯帰りにしばしば立ち寄っていた飲み屋が、ゴールデンウィーク中にランチ営業しているというので来た。当然お酒は出ない。オムハヤシライスとコーヒーの間に通り雨が降った。
雨上がりの街を歩く。山谷堀公園から土手通りに入り、三ノ輪の手前まで。
初めての銭湯に来た。
去年の11月に改装開店したという店で、もちろんまだ新しくて綺麗だし、少し熱めのお湯とぬるめの炭酸泉の組み合わせもいい。露天のエリアにはシルキーバスと水風呂、休憩用の椅子も完備。水風呂は深くて宜しい。拙宅からは少々遠いが、むしろこの銭湯を目当てに散歩の足を伸ばしたい。
ひとつ気がついたことがある。前にも書いたが、昔ながらの銭湯では、椅子と桶は流し場の入口にまとめて積んであって、客がめいめい持ってカランの前に座る流儀になっていることが多いと思う。
ここの流し場では、椅子と桶が最初から各カランの前に置かれている。考えてみれば、これはサウナ・スパ施設の流し場では普通に見る光景である。流し場の雰囲気が、昔ながらの銭湯というより、サウナ施設ふうだったので、最初から椅子と桶が置かれていることにまったく違和感がなかった。
そうか、押上の大黒湯は、昔ながらの銭湯の構えなのに、椅子と桶が最初からカランの前に置かれているという、サウナ施設ふうの流儀だったことに違和感があったのだと気づいた。
湯上がり、三ノ輪から竜泉、千束、浅草へ。
観音裏をぐるりと回って、デンキヤホールに。奥の部屋に通された。
小腹が空いたので焼きそばを頼んだ。たっぷりかかった青のりと、お好みの一味が嬉しい。アイスコーヒーは銅のコップ入り。
たまたま喫煙者が集まっていたのかも知れないが、タバコの臭いがきついのには閉口した。
二人連れの若い客が奥の席に居座って、職場の先輩と後輩なのか、一方が仕事の心得のようなことを延々と語っていた。
身体に染みついたタバコの臭いを洗い流したい。いつもの銭湯に。
あまなつ湯というのは初めてだったが、半分に切った甘夏がいくつもネットに入ってお湯に浮かんでいる。湯船に初夏の気配が横溢して、すっかり生き返った。
21,206歩。