吾妻橋から

岸にあがった花火

クリアケースにはりついたナフタリンの結晶が、小さな翼のように見える。
靴と見えたのは仮の宿りか。少し目をそらすと、いっせいに無数の翼に分解して、飛び去ってしまう。そうはさせじと箱の中に閉じ込めているが、いつまでこうして押さえ込んでいられるのやら。
散り散りになった翼は、空に溶け去り、すでにその輪郭も不分明だが、いずれまた次の宿りに羽を休めるのだろう。ちょうど隅田川から塩の結晶を取り出すように。

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木場から

マルレーネ・デュマス展のチラシを見ている。
「いま私たちの怒りや悲しみ、死や愛といった感情をリアルに表現してくれるのは写真や映画になってしまった。かつては絵画が担っていたそのテーマをもういちど絵画の中に取り戻したい」(デュマス)
リアルな感情。少なくとも今のぼくの中に、リアルな感情などあるのだろうか。
グルメガイドで見た情報を確かめにお店に行くみたいに、映画やテレビで見た情景をなぞっているのではないか、と。

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