梅若猶彦氏の公演の話だった。
しかしあれは能なのか、能を知らないぼくには、そこからしてよく分からない。
夕方の6時過ぎに会場のBankART1929に着いた。
受付で話を聞くと、開演は7時半というので、それまでしばらく、1階のホールで梅若猶彦氏の前作を上映するので、それを見てくれとのことだった。
ごちゃごちゃとマーケットの屋台が並んでいる中に大きなプロジェクターと椅子が搬入されて、即席の上映会場がしつらえられた。


そのうちに映像が始まったが、音声が聞こえない。時折、全然合わない音が鳴ったりする。
これはそういう演出なのではなくて、どうやら段取りが悪くて、冒頭のあたりでは音声の信号がうまく繋がっていなかったようだ。
が、梅若氏の映像作品「Birthday Cake」は、そんなドタバタを補ってじゅうぶんに魅力的なものだった。
登場人物は、青年、ナース姿の女性、そして、青年の化身とでもいうのか、白い荘重な衣装に身を包み、能面をつけた人物(今回の「一泊二食付き」公演のチラシなどのビジュアルで使われていた人物だ)。
Birthday、といいつつ、死の気配が漂う。あのナース姿の女性は何者なのか。
例えば、病院が人間の生と死との間にある場所であるとして、人を死から生へと引き戻す象徴的な存在が、ふつうぼくたちがイメージするナース。
では、逆に、生から死へと導くナースがいるとすれば、それは、この映像の中に現れる女性ではないだろうか。そんなことを思った。
登場人物にセリフはない。ワーグナーの「トリスタンとイゾルデ」をバックに演じられる無言劇。
この映像作品のキャストなどの詳細がもっと知りたいのだけど、慶應のDMCのサイトを見ても、伝送実験をしたという記事程度で、作品の中身については情報が見当たらないよ。
青年と白装束の人物はともかくとして(梅若氏のご子息と梅若氏ご本人)、あのナース姿の女性を演じているのは誰?今回の公演にも出演していた北村明子氏?
だとすると、この北村明子という人には、かなり魅了されてしまいましたよ。私。

コメントを残す