学校を出て最初に勤めた職場で、ぼくの上司になったのが、まあ、これがなんともアクの強い、クセのある女性であった。もう10何年も前のことだ。
この人も、今にして思えば、今のぼくと同じくらいの年だったのではないか。
そう考えてみると、また少し違った思いが沸いてこなくもないが、少なくとも当時、その人とぼくは、ソリが合わないというのか、なんというのか、まず、一緒に仕事をしていて、楽しいとか気が休まるとか、そんなことは一切なかった。


ごく主観的ないい方を許してもらえれば・・・まあ、イヤな人だった。
さあ、周りからは、どんなふうに見られていたことか。
かく言うぼくも、世間からみれば、結構クセのあるタイプだろうとは思う。
が、この人のアクの強さは、とにかく群を抜いていた。
まず、外見からしてそうだ。
今になってみると、当時、あの人が好きこのんで着ていた洋服のような、あんなスタイルの女性も、結構、街で見かけるようになった。
しかし、10数年前に、ああいう格好の人は、どれほどいたか。・・・しかも、職場でですよ。
今だって、当時のあの人くらいの年齢で、ああいう趣味の人は、そんなにはいないだろうと思う。
ぼくも、年をとって多少はスレてきているから、すぐに怒る人、キレる人、過剰に外見で自己主張する人、そんな人は、えてして気が小さく、心が弱い。そんなことも、だんだん分かってきた。
が、当時のぼくは、そこまで冷静になって、一歩引いて見るほどの余裕もなく、毎日を過ごしていたというのが、正直なところだ。
さて、その人のことで、今でも印象に残っていることがある。
ぼくが、一緒に仕事をするようになって程なくのこと。
当時のぼくは、なんやかやのことで、その人とぶつかって、ヒステリックに責めたてられることがしばしばだったのだが、そんなとき、あるお客から電話がかかってきた。
すると、電話に出たその人は、受話器を取るやいなや、ぼくに対していたときとは、口調から何から、まるっきり一変させて、下町の商売人然の慇懃さで(実際に何か商売人の子だったらしいが)、気持ち悪いほどの愛想をふりまきながら、その客と話しはじめた。
それは、横で見ていて、ほお、と感心するくらい、見事な変わりぶりだった。
と同時に、じゃあ、普段のぼくに対する態度はいったい何なのかと、いっそうこの人のことをいぶかしく思うようにもなった。
まあ、その頃は、まだまだぼくも世間ズレしていなかったということなのだろう。
今のぼくなら、机の上に足でも乗せながら、受話器の向こう側に愛想をふりまいたり、お詫びの言葉を連ねたり、そんなことはいくらでもできる。
・・・と思うのだが、どうかな。やはり電話の相手には、見透かされているものなのだろうか。
ともあれ、学生時代のぼくは、ほとんどバイトもしなかったし、客商売の経験などまったくないといってよかった。
だから余計に、学校を出たばかりのぼくは、いざ客を相手にしたときのその人の豹変ぶりに違和感をおぼえ、奇異にも感じたのだろうと思う。
その2につづく)

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