少し前の話になるけれど、恵比寿の写真美術館でやっていた「恋よりどきどき」展は、結構ショックだった。
というのは、そこに出展していたコンテンポラリー・ダンスの集団のことを、ぼくはまったく知らなかったから。
いや、単に、今、自分が知らないということなら、これから知っていけばいいわけで、それ自体は別にショックでもなんでもない。
むしろ、ぼくが知らない人たちが、ものすごい集客力を持ってすでに何年も活動していた、という事実が、かなりショックだった。
まあ、もともとバレエやダンスなど、まともに見たこともないし、ろくろく知らないんだけど。
ただ、そういった、ろくろく知らないけどなんだか面白そうだ、ということを見つけるアンテナや、見つけたことに関心を持って追いかけていくエネルギーが、今の自分には薄れてしまったのかなあ、という悲しさがあった。もしこれが、学生のころの自分だったら、どうだったかと思う。
それ以降、美術館やギャラリーに置いてあるチラシで、コンテンポラリー・ダンス関係のイベントの情報を見ると、注意して読むようになった。なってはきたけどね、実際に公演を見に行くまでは、腰が軽くない。興味はあるんだが、って言ってるうちに、年も取るよ。いやはや。
ちょっと用事があって、西早稲田界隈に出かけたのだが、早稲田大学の演劇博物館でコンドルズの展示をしているというので、ついでに見ていくことにした。
コンドルズは、先日の「恋よりどきどき」展でインスタレーションを出展していたダンス・カンパニーのひとつで、やはり、その展示を見るまで、何者でどんな活動をしている人たちなのか、まったく知らなかった。
が、1996年の結成以来、全国、そして世界を股にかけて活動し、東京でもシアターアプルや東京グローブ座といった劇場で公演を行っているという。
また、コンドルズの公演は、笑いの要素が強いらしい。その点でも、学生時代には、かなりマメにお笑いの舞台に足を運んでいたはずのぼくが、彼らを見落としていたのはショックだった。
さて、実は、これも恥かしいことなのだが、早稲田の演博というのも、今まで一度も入ったことがない。
学生時代のぼくは、お笑い的なものならともかく、ストレートな演劇にはほとんど関心がなかったし、周りに演劇好きの人間もいたのだが、結局、建物の中に入る機会を逸したまま、ずるずると年を重ねてしまった。まあ、今さら言っても仕方がない。
ただ、演博に関することで悔しいのは、また小沢昭一さんの話になるけれど、小沢さんが2年前に早稲田大学の芸術功労者として表彰されたとき、演博で小沢さん関係の展示があったり、記念の講演があったりしたそうだ。
今にすれば、これは是非行きたかったなと思う。けれど、当時はまだ小沢昭一的マニアではなかったから(その程度の底の浅いマニアなのだ)、演博での展示のことなど、ぼくの目に留まる由もない。
そんなこんなで、今まで一度も入ったことがないから、こうなったら、この際、演博には金輪際入らないでおこうかと思ったこともあったけど、いい年をして無駄な意地を張っても仕方がないので(われながら大人になったなあ)、ここに至って、ついに演博のドアを開けることとなった。
コンドルズの展示は3階にあるというので、ほかの展示をひやかしたりしつつ階段を上がった。板張りの廊下がミシミシいって、静かな展示室内に響くのが気になる。が、こんな古い木の床を歩くのなんて、どれくらいぶりだろう。そういえば、ぼくの小学校は5年生のときまで木造で、歩くとやっぱりこんな感じだったな・・・などと、不意に頭の中がタイムスリップする。