秋田へ行くことになった。
ぼくはこれまで、秋田には一度も行ったことがない。
というか、東北という地域に足を踏み入れたこと自体が、実は一度もない。
秋田での用事は、5日の午後の数時間だけである。
たったこれだけのために、わざわざ東京から時間とお金をかけて秋田に往復するのもバカバカしい。それなら、せっかくの連休でもあるし、いっそのこと、もっと時間とお金をかけて、北東北あたりをうろうろしてやろうと思い立った。
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朝6時東京発の「はやて」で一路八戸へ。在来線特急に乗り換えて青森に着くとまだ11時前。着いてしまうとあっけないもんだ。
さっそく駅前の食堂でウニホタテ丼を食べる。クーポンを出して1200円。これはこんなものなのだろうか。ぼくの後から入ってきたバスガイドか電車のアテンダントみたいな格好をした若い女性が、焼肉定食を頼んでいるのに感心する。
「アウガ」というビルの地下に、新鮮市場というのがあるというので覗くと、鮮魚や塩干物の店舗がぎっしりと並んで壮観だ。地上の雰囲気からは想像がつかない。観光客相手というよりは、かなり本気度が高いと感じた。食堂もあるので、ここで飯を食ってもよかったと思う。しかしこのビルは、地下が魚介類の市場、地上がブティックが入るファッションビル、さらにその上は市立図書館というスゴイ構造になっている。
バスに乗って国際芸術センター青森を見に行く。駅前に戻って3時。
飲みに行くには早いので、ホテルで自転車を借りて、下見ついでに近くを見て回る。
居酒屋紀行の番組で紹介されていた「小政酒道場」は、探すつもりでなかったのに偶然見つけた。開店前の店の前で写真を撮っていると、ご主人が出てきてビックリ。あわてて開店時間などを聞く。
番組では放映されていなかったが、髭コラムを読むと「ふく郎」という店がよさそうだ。探して行くと、今日から三日間、改装のために休業するとのこと。うーん、間が悪いな。残念。しかし答えてくれたご主人らしい人の感じがよく、今度機会があったらぜひ訪れてみたいと思う。
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さて夕刻5時、さっそく「小政酒道場」に出かけた。ぼくが一人目の客のようだ。
ここで食べたものは、刺身盛り合わせ、貝焼き味噌、チカ塩、ミズのおひたし、ホヤ。
お酒は「田酒」、「ん」(というお酒)、「から鬼じ」、「豊盃」を。「豊盃」はもう一杯飲んだんだっけな?
お通しは、野菜や豆腐などを細かい角切りにして味噌で煮たもの。多分これを「けの汁」というのだと思う。旨い。
心なしか刺身の鮪が旨い。貝焼き味噌は初めて食べたけど、もう少し熱々に焼いてあるものかと思っていた。具の帆立も豆腐も温めた程度という感じ。
チカ塩というのは、チカという魚の塩焼き。これも初めて食べる。ていうか、こんな魚知らなかった。調べてみると、どうもワカサギの仲間(あるいはワカサギそのもの?)らしい。ふーん。
ミズという山菜は、これも調べると、ミズナ(京野菜の水菜とは違う)、富山ではヨシナと言われているものと同じ種類なんだな。ヨシナは子供のころ酢の物にしてよく食べさせられたものだ。このミズはヨシナより太くて食べごたえがある。おひたし、とあるけど、汁の中に浮いているようだ。これはこれで旨い。
上に書いたように何種類か地酒を試してみたが、なにぶん味オンチのことゆえ、お酒の味についての感想は省略する。しかしよく分からないのは、この中には冷酒で頼んだものもお燗で頼んだものもあるが、燗酒を注文してから出てくるまでがやたら早いのだ。いや、早いだけならよいのだが、これ、ホントにお燗したの?と思うくらい、どれも超・超ぬる燗である。そうか、やっぱり青森は寒いからお燗もすぐに冷めてしまうんだな。そんなことはあるまい。
店内に貼ってある青森ねぶたのポスターを見ると、田酒の広告が大きく入っている。東京で田酒というお酒のことを知っている人がどれだけいるか知らないが、さすがに、何か大きなイベントのスポンサーになるほどの存在感はないだろう。そんな認識のギャップがなんだか面白い。
そろそろお客さんが込みだしたので、適当なところで腰を上げる。といっても、これだけ飲み食いしたら、やっぱりそれなりのお勘定になった。
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飲み始めが早いので、まだ宵の口である。
この際、番組の内容どおりに店をたどってみようか・・・。
青森編の二軒目はバーだった。遠いと思って自転車の下見もしていなかったのだけど、ほろ酔い気分で歩いているうちに、結局そのあたりに着いてしまった。
が、居酒屋紀行のサイトのプリントアウトを手に行ったり来たり、確かにこのへんだと思うのだが、それらしい店が見当たらない。店が変わってしまったのか。
探しあぐねて、ホテルでもらったガイドマップを出すと、ここから程近いところに、青森屋台村なるものがあるらしい。せっかくだからちょっと覗いてみるかと、あっさり方針変更。
ということで、また2、3分程歩くと、ありました。屋台村が。「さんふり横丁」というらしい。十数軒の小さな店が路地の両側に並んでいる。
しばし迷って、中ほどの店に入った。先客がひとりいる。
夜の街をうろうろして、さすがに体も冷えてきたので、湯豆腐と燗酒を頼む。お酒は菊駒というのにした。お通しはなめこと菊の花のおひたし(菊の字が重なっているけどこれは偶然)。
コの字型のカウンターだけの店。お客が6、7人も座れば一杯になるだろう。
カウンターの中には60代ほどのご主人、その奥の厨房では奥さんらしい人。
ご主人に一軒目の店でかなり飲み食いしてきたことを告げると、何を食べて来たかという。チカ、ミズ、ホヤ・・・、どれを挙げてもそれは時季を外れていると言われるので、なんだか可笑しくなってしまった。
ちょうどぼくが背にしている壁に青森の産品を紹介するポスターが貼ってある。見ると、確かにご主人の言うとおり、あるものは旬が10月までとなっていたり、またあるものは11月からとなっていたり。もしかすると、ちょうど今ごろは端境期にあたるのかもしれない。
陸奥湾の味覚を表すのに、七子八珍、という言い方があるそうだ。七子、というのは名前に「子」がつく魚介類の卵。八珍というのは、その名のとおり八種類の珍味。正直言って、陸奥湾がこんなに豊穣な海だとは知らなかった。
ご主人がガラスケースの中からフジツボを出して手渡してくれた。大きいんだ。フジツボって、こんな大きいんだっけ? 子供のころ、近くの海の岩場で見たのとはだいぶ印象が違う。
と思っていたら、おお、手の中のフジツボが急に動き出したので驚いた。
店が狭いから、と言って、奥さんがわざわざ表を通って入口からお酒を持ってきてくれる。
しかし、これがかなり熱い。二本目につけてくれたのなど、徳利が手で持てないくらい熱い。どうやら電子レンジで温めているようで、その加減がよろしくない。それにしても、さっきの店はお酒がぬるすぎるし、こっちの店は熱すぎるしで、なかなか上手くいかないものだ。
二本目の徳利を空にしたところで、お勘定にしてもらうことにした。実をいうと、もうお腹もいっぱいなのだ。しかし、そういえば、じゃっぱ汁というのをまだ食べていないな・・・。
再び駅周辺に戻り、アウガの前で客引きのオバサンにいい子いるよと腕をつかまれて、こんなところにもこんな人がいるんだと感心しつつ、青森の夜は更けていくわけなのだが。
ちょっとコメントするには日がたっていますが・・・
妹が結婚して青森市内に住んでいるのでその辺は詳しいですよ。
アウガの上の方には市の施設もあるんですが、
その中でインターネットも出来るエリアがあります。
妹のところに遊びに行った時には、ここで書き込んだりします。
ほんとは見ることしかやってはいけないらしいのですが。
小政酒道場、ボクも店はチェックしましたが、
結局入店していません。
歩いても行ける距離ですが、夜は家で飲んじゃうんで。
ちなみに妹のだんなの実家が居酒屋をやっているので、
次に青森に行く機会があったら、行って見て下さい。
小政酒道場まで歩けば、そこからは、さほど遠くは無いです。
NTTの裏手になります。
ねぶたのときは一番いい場所です。
こんにちは。ご無沙汰してます。
青森にご縁があったんですね。
「夜は家で飲んじゃう」というのも、逆にうらやましいですねえ。
ぼくも、居酒屋もいいけど、アウガの地下の市場で買ったものをホテルの部屋に持ち込んで飲むのもいいかなあと一瞬思ったくらいです。
今回、青森は一泊二日でしたけど、いずれまた時間をかけて行ってみたいなあと思っています。
そのときは妹さんのご主人のご実家の店にもぜひ伺います。