あわてて駆け付けたのだが二階席でガラスごしに見ることになるのだという

このモブログを送ったときはそういう話だったのだが、うまく席が空いたのか、結局舞台脇の桟敷席で座布団に座って見ることになった。悪くないね。
ということで、アサヒ・アートスクエアに「吾妻橋ダンスクロッシング」を見に行ってきた。
ぼくは前回に続いて、これが二回目。
まあ近所ですから、前回ふらりと見に行ったのだが、そのときまで、いま若い人たちが、ダンスを、言ってみれば口実にして、いろんな表現を試しているんだということに、うかつにも気づかずにいた。
ダンスというキーワードのもとに、美術も演劇もお笑いももっと身体性の強いものも、並存したり重なったりしながら、あれこれ詰め合わせになって集まっているみたいだ。
今回はサブタイトルに“The Very Best of AZUMABASHI”って付いている(実は会場で初めて気づいた。いい加減だね)。ということは総集編か何かだったのかな?


プログラム:
0.河童次郎の「かっぱ橋ダンスクロッシング」
1.オープニング
2.康本雅子「姉?」
3.ボクデス&チーム眼鏡「小手指商事・営業課」
4.身体表現サークル「ザ・ベスト」
5.宇治野宗輝&ザ・ローテーターズ「EVEN THE BEST CAN GET BETTER WHEN IT’S BIGGER」
6.Off Nibroll「chocolate」
7.康本雅子「ブッタもんだすって」
8.ほうほう堂×チェルフィッチュ「ズレスポンス」
9.KATHY「MISSION/R」
10.Bonus Track「!??????!」
0番は、上の写真にも残骸らしきものがちょっと写っている、これのことかな?ぼくが着く前に、広場で何かやってたんだろうか。
オープニング。A-haの「テイク・オン・ミー」が流れると、暗がりのなかに体中に電球をまとった(電気服?)ふんどし姿の男女が現れ、微妙にゆるいダンスを見せる。回転しながら互いに平手打ちしている。この動きはどこかで見たことがあるぞ。
康本雅子氏。薄手の黒い着物をまとっている(正しい名称があるのだろうが、和服に詳しくないのでわからない)。この音楽は前回も使っていたな。着物を脱ぐと赤いラメのタンクトップというコントラスト。サーチライトを持って踊る。
康本氏は前回も出演していて、むろんぼくは、彼女のダンスを見たのはそのときが初めてだったのだけど、ひじょうに印象的だった。が、今回は、時間が短いので物足りないな。少なくとも、このときはそう思っていた。
ボクデス&チーム眼鏡。全員がスーツにワイシャツ、ネクタイ姿。サラリーマンを意識した衣装なのは容易にわかるし、そういう扮装なり演技なりを非サラリーマンの人たちがしているのを現役サラリーマンであるわたしのような人が見ると、えてして気恥ずかしく感じられるものなのだが、この人たちは(悔しいことに?)そうは見えなかった。むしろ、サラリーマンの新しい可能性を垣間見させてくれたと思えたくらいだ。
サラリーマンが腕時計を確認する仕草をダンスにまで持っていたのは、なるほどなあと感じ入りましたよ。縄をぶるぶる震わせてうどんを喰っているように見せるのも秀逸。プロレスのシーケンスのスローモーションな再現もいい。これはひとつのプロレス批評になっているね。というか、スーツ姿で踊ること自体がサラリーマンについての批評というわけだが、これが案外難しいのはさっき書いたとおりだ。魚をさばくのもいいねえ。こういう、ある状況の細部を拡大して同時進行させる見せ方は、結構考えつきそうなものだし、実際どこかで見たこともあるような気がするのだが、身体の端まで神経が通っているから、見ていて気恥ずかしくならないのだろう。マイケル・ジャクソンがちらりと出てきたのは時事ネタか。
ボクデスたちと身体表現サークルが舞台上で絡みながら交代する。ふんどし一丁の男が4人。オープニングの電気服はこの人たちだったか。
そうかそうか、前に見たぞ、この人たち。横浜トリエンナーレで。ナカニワで、片手を前に伸ばしたままくるりと回転して次々に隣の人間の顔を張っていくというパフォーマンスをやっていた。確か客も参加させられていたな。ぼくは、そのとき、ただ見ていただけだっけ?
ふんどしをつけただけの男たちが体を密着させて珍妙な動きを続けている。そうなると、どうしてもこれはホモの含意があるように思えてしまう。メンバーに女性もいるようなのだが(オープニングとエンディングでは出てきた)、このパフォーマンスでは男ばかり。その筋の通が見たらたまらないかも知れない。白ふんどしにプロジェクタで映像を投影するのは面白かった。
宇治野宗輝氏。この人かあ。この人もハマトリで見たぞ。あのときは、物販ブースの隣のあたりにターンテーブルを置いてパフォーマンスをしていた。人もいっぱいだったし、クラブみたいにやたら盛り上がっていたね。ぼくも、すぐ近くで見ていたから、すごく臨場感があって興奮した。
今回は、残念ながら、そういう盛り上がりはなかった。会場が違うから仕方がない。アーティストと客との間の距離があるしね。ただ、ターンテーブルを操作する手元や回転するオブジェ、点滅するランプなどをビデオカメラで撮って、スクリーンに映している。回るもの、光るものに対するフェティシズム的な執着が伝わる。何か棒状のもの(バナナ?)をミキサーに入れてかき回し、牛乳をドボドボと注いでさらに攪拌する。蓋をぎゅっと閉めると不意にミキサーの隙間からプシュッと一吹き。これはアーティストにも不意だったか。ターンテーブルのパフォーマンスが終わるとミキサーの中身を一口飲む。舞台袖から舞台上に移動し、先っぽでミラーボールが回転する大きなマシンガンみたいな形をしたキネティックなオブジェをかかえて歌う。
ここで休憩。
休憩時間に手を洗いに行ったら、トイレ横の小部屋?でChim↑Pomというアーティストのグループが小さな展示をしていた。狭いところに人が後から後から入ってきて、あんまりじっくり見られなかったけど。あれだけじゃよくわからないなあ。この人たちはダンスはしないのだね。
さて、プログラムの順番でいうと、休憩明けはOff Nibrollの出番ということになるのだけど、これまたうかつにも、小柄な女性ふたりが舞台に出てきたところで、ぼくは、これはほうほう堂のふたりだと勘違いしてしまったのだ。ほうほう堂は生で(しかも結構間近で)見たことがあるはずなのに。かたやNibrollは初めてで、映像くらいはどこかでちらりと見たことがあるのかな。まあその程度。
ダンスが始まって、ちらり、ちらりと、あんな人たちだったかなあという思いが頭をよぎりつつも、あれはほうほう堂だと自分で思い込もうとしていたのだね。Off Nibrollのパフォーマンスのタイトルが「chocolate」で、舞台の上でチョコレートを撒いたり拾ったりしているんだから、休憩時間にでも注意深くプログラム見てれば、おかしいなと気づいてるようなもんだが。うーん。
今までぼくがほうほう堂の二人を見たのは、一度は写真美術館の館内で、もう一度は去年のアサヒ・アートフェスティバルの水上バスでだ。どちらもその空間全体を縦横に使ったパフォーマンスだったし、公共の場だから、音とか光の演出もない。彼女たちの身体の動きと、その空間にある人やモノとの絡みだけだ。
だから、舞台という場になると、やっぱりシアトリカルになるのかなあ、音楽や映像を使っているからかなあとかと、間抜けなことを考えながら見ていたのだ。
とはいえ、後から出てきた(本物の)ほうほう堂の二人も、舞台では音楽を使っていた。「香港ブルース」(のオリジナル?ぼくは細野さんのバージョンしか知らない)が流れていたね。また舞台上にヘビ(?)のぬいぐるみを置いたり、紙ふぶきを撒いたりというのは、野外のパフォーマンスでは見なかったことだ。ただ、スニーカーや靴下を脱いで飛ばしたりという、何度か見た所作はここでも繰り返していた。このあたりで、これってほうほう堂じゃないか?という疑念が確信に変わりはじめる。今さらながらですが。ほうほう堂のほうが動きの抽象性とか痙攣性(そんな言葉があるのか知らない)は強い。
公演のエンディングで、今回の出演者が全員舞台上に集まったとき、Off Nibrollとほうほう堂が近くに並んだのだが、二組を見比べると、当然ながら違いは一目瞭然ですね。ほうほう堂のほうが上背が揃っているから(彼女たちはそういうコンセプトなわけだが)、その点だけ見ても抽象度はある。
衣装でいうと、Off Nibrollは似たような少女っぽいデザインの服に揃えていたと思うけど、ほうほう堂は二人別々だった。衣装にはどこまで配慮しているのだろう。
というわけで、当初取り違えて見てしまっていたせいで、この二組については、対照するような感想しか書けないね。ご容赦願いたい。勉強して出直してまいります。
Off Nibrollの次は、再び康本雅子氏の出番。今度は、ひとりではなく、男性のダンサーとの共演だ。プログラムを見ると、出演は康本氏と常楽泰という人だという。どういう人なのだろうと検索してみると、えっ、身体表現サークルの主宰者とある。あの、ふんどし集団ですか? 確かに、このプログラムの身体表現サークルの振付も常楽泰と書いてあるなあ。もしかして今回見たふんどし姿の4人の中にも入っていたのだろうか。
彼ら自身のパフォーマンスと、この康本氏と絡んで見せたダンスとが、一見色合いが異なっていて戸惑う。それは、ホモ的でユーモラスで、ある種ゆるい動きと、シャープで、スピーディーで、ヘテロセクシャルな動き(男女二人の絡みだからそう見えてしまう)との違いの戸惑いだ。
康本氏は、あえて言葉を選ばずにいうと、いい体してるなと思う。肉感的だ。いや、肉感的に見せようとする演出がこちらまで的確に伝わっている、というほうが、言葉はくどいけれど、より正しいかもしれない。自分の恵まれた肢体(少なくとも相対的には)をじゅうぶん自覚している人なのだろう。康本氏ひとりのダンスでは、自分の肢体を大胆に誇示するように、ほとんど扇情的といっていいくらいに踊る。
が、この今回二度目の出番では、男と絡んでいるから逆にそう見えるのか、肉感性は後に引いて、むしろ、かわいい、という言葉を使ったほうがよいくらいの感じだ。さっきは手の届かないところで踊っていたのが、今度はこちらの近くまで降りてきたような。
うーん、ヘテロセクシャルと書いておきながら、ひとりでのダンスが肉感的に見えて、男女ふたりでのダンスのほうが肉感性が後に引くというのも、われながらおかしなことだね。ただ、このヘテロセクシャルというのは、単に男女ふたりが出てきたから、そういう関係に見えるという、見ている自分の頭の中の制度性の問題かもしれない。
ひとりでは強く、屹立して、扇情的なのに、男といっしょだとキュートか。このキュートというのを言い換えると、男に媚を売ってるように見えるということだね。これもまた制度的だが。むろん、康本氏は、わざと色分けをしているのだろう。そういえば、二度目の出番では、舞台の上でちらりと声を出していた。「じゃんけんぽん」とか、「ひこうき」とか。二人なら声も出るか。これもまたキュートさを演出している。
あと、康本氏は、すごく衣装を使ってますね。着たり脱いだり、また着たり。脱いだ下に違うものが現れたり。そしてその色のコントラスト。
KATHYって、この前、横浜美術館の「アイドル!」展で見たなあ。あの人たちか。ドレス姿に黒ストッキングを顔にかぶって金髪のヅラをつけた女の子?の集団。
舞台の上では3人のメンバーがラヴェルの「ボレロ」に合わせて手を振り上げ、大げさに足踏みをしている。
と思ったら、そのうち彼女らは舞台を降りて客席に乱入し、肩にかけた大きなトートバッグから例のストッキングとヅラを取り出して、最前列にいた男性客に無理矢理かぶせているではないですか。そしてすっかり様子ができあがった客を舞台に連れ出し、同じ振りをさせる。
被害者はこの客だけに留まらず、会場のあちこちでストッキング+ヅラをかぶせられた男女が多発している。結局、5、6人の客が舞台に上げられたんじゃなかったか。
KATHYのメンバーが値踏みするように舞台上から客席を物色している(永田の敬礼ポーズみたいに右手を額の前に上げてね)のを見ると、まさかこっちにお鉢が回ってきやしないかと、にわかに戦慄が走る。それに、桟敷で見ているものだから、すぐ近くをうろうろしているんだ。まあ、こんなおじさんは舞台には上げないだろうがね。いや、おっさんだから面白いということもあるしな。まあ、その場合はもっといかにもおっさんらしいおっさんを上げるか。
感心したのは、舞台に上げられた客が、みんなそれなりに振りをこなしていることだ。まあそれほど難しい動きじゃないですけどね。それでも、よくやるなあと思う。ぼくの前のほうで踊っていた女性客など、かなりノリノリだったのがわかる。みんなやりたがりなのね。
エンディングで今回の出演者が舞台上に揃ってあいさつ。
Bonus Trackってのはカニだ。とにかくすぐそこまで水しぶきやカニの手足が飛んできてた。
* * *
吾妻橋ダンスクロッシング 「The Very Best of Azumabashi」
会場: アサヒ・アートスクエア
スケジュール: 2007年03月09日 〜 2007年03月10日
住所: 〒130-0001 東京都墨田区吾妻橋1-23-1 アサヒスーパードライホール4F

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