2時間鼻ひんまがりっぱなし

いきなり私事からだが、こう見えても小学生の頃は、宇宙にあこがれる子供だった。
大人になったら、宇宙に関係した仕事をしたいと思っていた。
といっても、一番なりたかったのは、遠い星や銀河のことを研究するような天文学者ではなく、実際に地球の外に出かけていく宇宙飛行士でもない。実は、宇宙に行ったり調べたりするための衛星を打ち上げる、ロケットを設計する技師になりたかった。エンジニア志向があったわけですね。
それから幾星霜、子供の頃の気持ちはどこへやら、生来の飽きっぽい性質ゆえか、一度決めたことを最後までつきとおすということができない人なのですね。余所見をしてはあっちへふらふら、こっちへふらふら。なんだか脇道にそれてばかりいる人生を送っているような気がする。


そんなわけで、今となっては宇宙やロケットについて、さすがに何か大きな打ち上げがあるときなどは世間並みにニュースは見ますけどね、日常的な興味、感心の含有度でいうと、そうねえ、果汁0.3%くらいですかね。もっと濃厚な興味はどこか別のところに行ってしまっているわけです。
こんな今のぼくを、もし小学生時代の自分が見たら、どう思うことだろうか。
まあ、人は変わる、ってことだね。あっさり片付けすぎかな?
しかし、宇宙だのロケットだのを自分の飯のタネにしないまでも、それを深く、濃く追求して人後に落ちない、なんていう人たちも世の中には結構いるのだ、ということを、しみじみ知らされたことがあった。
初台のICCに出かけた。
「OpenSky 2.0」展も、会期の初めのころに八谷和彦氏のトーク・イヴェントを聞きに行って以来だ。ぼくは、飽きっぽいと同時に貧乏性でもあるので、何か展覧会を見に行くときは、どうせ同じ入館料を払うのなら、なるべく作家やキュレーターのトークを聞ける機会を選んで出かけるようにしている。
で、12月に聞いた八谷氏と機体を設計した四戸哲氏とのトークが面白かったので(このときは元気がなかったのかメモを残してないね)、今回も、本展最後のトーク・イヴェントを狙って出かけた次第。
今回のテーマは「ロケットまつりEX『宇宙(そら)へ』」という。どうやら歌舞伎町のロフトプラスワンでやっている恒例イヴェントの出張版という趣らしい。そういや当方、ロフトプラスワンというところにも行ったことがないんだよ。
まず驚いたのは、開始10分くらい前に会場についたら、すでに入口前に長蛇の列ができていたことだ。そして、その客層も、普段ICCで見る人たちとは違って、世間的にステレオタイプなオタクイメージに分類されそうなヴィジュアルの人たちが多い。って、やたら言葉を選んでるなあ。要はオタクって言えばいいんだオタクって。
ただ、例えば「嫌オタク流」とかで批判されているようなオタクというよりも、どっちかというと、旧来のタイプのおたくだろうね。要は鉄道おたくとか、飛行機おたくとか、おたくをマニアって言葉で言い換えても問題なさそうな人たち。
そうか、世の中には「鉄っちゃん」って言われるような鉄道おたくの人たちがいるのと同じような感じで、ロケットおたく、というべき人たちが存在するのか!
なるほど、宇宙やロケットを飯のタネにしなくっても、こうして深く、濃く追求していくという道もあったのだなあ。だが、ぼくはそっちの道にも行かなかった。子供のころからそれくらい飽きっぽかったということです。
それに、ヴィジュアル的なことは、こちらも他人のことを言えた義理ではない。お互い様というところでしょう。
ようやく開場になった。人波に押されるように中に入り、なんとか適当な場所に席を取った。会場の前のほうは、もうその筋の人たちでぎっしり。
壇上左から、野田司令、藤谷文子、松浦晋也、八谷和彦の各氏、と名前を書き写してみたものの、八谷氏しか知らない。松浦晋也氏って、最初このイヴェントの案内を見ていて、音楽評論家の松山晋也氏と混同していた。何でこんなところに出てくるんだ?と。それから藤谷文子って何者?うちに帰ってから調べてわかった。そういえばそんな人もいましたね。いずれにしても、各氏とも、トーク前にもう少しきちんと氏素性を紹介してほしい。あるいはプロフィールを配るとかさ。初心者客に多少の配慮があったことは分かったけど、基本的にわたしらのことみんな知ってるでしょ?という前提で話を始めてるんだもの。
トークが始まって、奇妙だったのは、話の内容がそんなに面白いのかな?というところで、会場の特定のエリアだけからものすごい笑い声が上がっていたことだ。どうもそのあたりが、ロフトプラスワンの常連が流れてきている一帯らしい。
そんな奇妙な雰囲気に気おされているうちに、だんだん、言いようもなく不快な気分になってきた。
・・・なんだか臭うのだ。
ぼくが座っている席の前の列に、髪の長いデカイ人の二人連れがいる。デカイにもいろいろあるが、この人たちの場合はもっぱら重量級という意味にとっていただきたい。
最初、ぼくの左斜め前の人は女性なのかと思った。髪が長いから、という推測は非常にあさはかだったので、よく見ると実は男だった。その隣は、さらに髪を腰まで伸ばした女だ。しかもデカイ。デカイ人同士のカップルなのか・・・。
どうやら、その不快な臭いは、左斜めの男のほうから漂ってきているらしい。
トークが始まったばかりのころは、会場もやや雑然としていたからか、それほど気にはならなかったのだが、しばらく時間が経ち、会場も落ち着いてくると、明らかにその男から臭気が発散されていることがわかるようになってきた。
その男の背後の席の客など、臭気の直撃を避けるためか、OpenSky展のチラシで顔を隠すようにしている。と思ったら、その臭気に耐えかねたのか、そのうち空いている別の席に移ってしまった。可哀想にねえ、八谷さんのファンなのかしら。
ぼくはそれほど露骨なことはしなかったけれど、2時間のトーク・イヴェントの間じゅう、ずっとハンカチで鼻を押さえながら話を聞いていた。
会場のややマニアックな雰囲気はともかくとして、トークの内容自体はやはり興味深いものだったので、あの異常臭気さえなければ快適に楽しめたのにと残念に思う。
しかし、これもまあ、ぼくも人のことは言えないのかも知れないが、それでもあんな臭さはないと思うぞ。今日だって出掛けにシャワーを浴びて頭だって洗ってきてるのだ。一日じゅう家の中に篭っているのならいざしらず、せめて大勢の人前に出るときくらい、周りの人に対して多少の気遣いがあったっていいじゃないか。
もうひとつ、ただでさえ世間ではオタクは身なりに気を使わないというステレオタイプが出来上がってしまっているのだから、ひとりでもそのステレオタイプにズバリな人を実際に目にすると、そういうイメージがより強調されてしまうではないか。いや、少なくともぼくの中では強調されてしまった。だから、その人はオタク界全体のためにも、きちんとシャワーを浴びて頭くらい洗うべきだと思う。
さらに疑問なのは、女のほうのデカイ人は、この男と一緒に過ごしていて、何とも感じないのだろうか? もう鼻がバカになっちゃっているのだろうか?

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