またまたAAF学校。今回のテーマは「アートプロジェクトを検証する・初級編」。
最初に感想を書いてしまうと、全体に雲をつかむような話が多くて、正直なところ、検証以前、評価以前だな、と思った。
あるいは、身内の検証ごっこ、評価ごっこまで含めて、それをひとつの「アートプロジェクト」だと言おうとしているのか。それならそうで、まだ分かる。
いきなり不遜な物言いをしてしまったけれど、それくらい、話を聞いていてフラストレーションがたまる。
つまり、いったい「何を」「何のために」「どのように」検証するのか。


「何のために」ということについては、今回の話で、おぼろげに浮かんできたような気もするけれど、「どのように」という点になると、なお五里霧中である。
いや、そもそも「何を」検証するのか。ここでは「アートプロジェクト」という言葉が自明のように交わされているけれど、それはいったい何を指すのか。
いま、配布されたレジュメを読み直すと、アートプロジェクトについて、「ある地域の地域資源を生かして行う創造的なアート活動」という定義が掲げてある。
しかし、これはかなり偏りのある定義ではないかと思う。「アート」や「プロジェクト」という言葉をどうひっくり返して見ても、そこから「ある地域の地域資源を生かして行う」などという意味は出てきそうもない。
「ある地域の地域資源を生かして行う」云々は、アートプロジェクトの定義というより、むしろAAFにおけるアートプロジェクトの評価方針というべきではないだろうか。アートプロジェクトという言葉自体は、もっと中性的なものではないかと思うのだが。
なんだか揚げ足を取るようだけれど、評価なり検証なりという面妖な試みのためには、言葉の意味に立ち返って、それを関係者の間で共有することも大事だろうと思う。
「アートプロジェクト」という言葉の自明性とともに、「アートプロジェクトは検証困難」という認識も、あたかも自明であるかのように語られているように感じる。果たしてそうなのだろうか?
ここで「アートプロジェクト」という言葉のもとで行われている活動について、その芸術的な価値を評価することに困難が伴うだろうことは、ある程度察しがつく。
実物を見ないでそれを評価することは困難なはずなのだから、地理的に、また期間的に分散した活動の総体を誠実に評価しようと思うと、かなりの時間、その活動にお付き合いを強いられることになる。
また、自分自身がその活動に巻き込まれてしまえば、それを客観的に評価するというよりは、インサイダーの視点になってしまうだろう。
一枚の絵の価値を定めるのも大変だろうと思うのに、アートプロジェクトの評価に至っては、美術批評をする人はよほど悩ましいことだろうと思う。
が、このような芸術的価値の評価は、その筋の専門家の方にお任せしよう。
というか、少なくともぼくには手が出そうにもないし、また、ぼくひとりが見ている分には、そういった言説はさておき、ぼくひとりが面白がったり、つまらながったりしていれば済むことだ。
だいたい「アートプロジェクトの検証」というから厄介そうなので、そこからいったん「アート」を取ってしまって、「プロジェクトの検証」にしてしまえば、話はとたんに分かりやすくなる。
まず、プロジェクトの方針に従って、中長期的な目的を立て、そこから今年の目標をつくり、さらにそれを実現するための個別の活動まで落とし込んだ計画を作成する。
実際の活動が始まったら、計画に対する活動の実施状況を確認し、定期的に目的や目標の達成度合いをチェックするとともに、必要に応じて目的や目標を見直す。あとは、それをおなじみPDCAサイクルで回していく。
とはいえ、このようなプロジェクト管理を、アートプロジェクトで行うのは、やはり大変なことだろう。
そういうことも含めて、検証以前の状況だと思う。
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ここで言っている「アートプロジェクト」に入るのかどうか分からないが、3月までICCでやっていた「OpenSky 2.0」展を見たとき、これはプロジェクト的なアートだなと思った。
展示室に入って、正面の壁にいくつかの図面や記録写真等が展示してあったのだが、その中に、あれは愛知万博に試作機を展示する作業のためのものだと思ったけれど、きわめて詳細な作業工程表があって、まず、それを見て唸った。
ここまでかちっと工程表を作るアーティストがいるんだ。というか、ぼくだってこんなチャートが作れるかどうか自信がない。
世間一般的に、アーティストというと、自分の意の赴くままに仕事をするようなイメージがあるけれど、あの工程表(むろん、それだけではないのだけれど)を見て、考え方をちょっと変えさせられた。
OpenSkyというのは、ひとり乗りのジェット飛行機を作るためのプロジェクトなのだけども、飛行機はひとり乗りでも、それを作る過程には、実にたくさんの人々が携わっている。
また、各地の美術館や愛知万博で展示するとなると、当然会期は決まっているわけで、その日程に合わせて、何人もの人をまとめ上げて、工程ごとに適切に配置し、作業の進捗を管理していかなければならない(といっても、カタログによると、愛知万博では、「全員死にそうな思い」をしたそうだけれど)。
展示室の中のメーヴェ、じゃなかったM-02Jと呼ばれる飛行機だけを見てもしょうがない。そのための試作機や、図面や、工程管理表や、テストフライトの模様の映像や、あるいは作家の八谷さんの頭の中にあるイメージまで、ぜんぶひっくるめてOpenSkyというアートプロジェクトで、そのプロジェクトを遂行していくためには、適切なプロジェクト管理をしていかないといけない。
ひょっとして、折に触れて行われる美術館などでの展示は、このプロジェクトの進捗についての大掛かりな検証作業ではないかと思うくらいだ。
このOpenSkyでは、「空を自由に飛びたい」という思いがあって、そこから、ひとり乗りの飛行機を作ろうという目的が設定され、そのためにはどうすればいいか、という落とし込みが行われている(ひとり乗りの飛行機の次は、ひとり乗りのロケットらしいけど)。
AAFにしても、思いは違えど、「ある地域の地域資源を生かして創造的なアート活動を行いたい」という思いから、それを具体的な行動にどう落とし込んでいくか、ということだろう。
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AAF学校2007 vol.5「アートプロジェクトを検証する・初級編」
会場: アサヒ・アートスクエア
スケジュール: 2007年05月17日 19:00?20:30
住所: 〒130-0001 東京都墨田区吾妻橋1-23-1 アサヒスーパードライホール4F
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