小沢昭一歌のステージ「唄って語って僕のハーモニカ昭和史」を見てきた。
生で小沢さんを見る機会はこれまでも何度かあったけれど、小沢さんのひとり劇団「しゃぼん玉座」名義の公演を見るのはこれが初めてのこと。
実をいうと、この紀伊國屋ホールの客席に座るのも、今回が初めて。
ぼくが学生の時には、まだ小沢さんはこの場所で「唐来参和」の舞台をやってたんだ。あの頃どうして気が付かなかったものか。惜しいことをしたと思うが、ま、過ぎたことは仕方がない。今の小沢さんを見ることだ。


開演前、場内に童謡「しゃぼん玉」のメロディーが流れる。すると、パチリ、と前方左右の非常灯が消える。続いて客席の照明が落ちる。曲につれて、徐々に照明を落としていく趣向。ニクイ。
曲が「丘を越えて」のメロディーに変わる。幕が上がる。ステージ中央に立つ小沢さん。小沢さんはベージュのスーツ、そしてベージュ(!)の靴。オッシャレー。
舞台下手にピアノ、上手には街灯。まるで矢吹申彦さんのイラストのような空。
小沢さんの「ザッツOK」のステップの軽やかさ。「あめふり」の冒頭、マイクを傘のようにささげ持つしぐさ。
「二人は若い」の「空は青空」というところで、パッとホリゾントが青空に変わる。
名古屋駅構内、海軍士官の「待て!」の声と共に、客席に明かりが点く。小沢さんは寝ていた客を起こしたと言ったけれど、これは、考え済みの舞台効果では?
焼け跡の蒲田、友達の家に一夜のねぐらを借りる小沢さん。兵学校から持ち帰った大きな荷物を枕に横になれば、ひとつ星だった空に、いつか満天の星がきらめく。
最小限の舞台装置なんだけど、照明と演出だけでこんなに豊かな世界が作れるものか・・・。
この公演、「歌のステージ」と題しているけれど、これは、やっぱり演劇だと思った。
最初、小沢さんの歌やハーモニカの演奏を、どうして劇団「しゃぼん玉座」の公演としてやるんだろうと、実はちらりと思っていた。つまり、小沢昭一コンサートでいいんじゃないかと。が、実際に舞台を見た今では、なるほどと思う。
大げさに聞こえるかも知れないけど、演劇の見方が、少し変わった。今まで見てきた演劇らしいものって、何だったんだろう。大勢の人がもっともらしい格好でぞろぞろと現れて、大道具小道具がたくさん並んで、派手な音響や照明が溢れて・・・。
小沢さんひとりで、いいじゃないか。そこにピアノと照明があれば・・・。舞台の上での、道具と役者と演出の関係が、ぼくの中でぐらりと動いた。
虚実皮膜、手練手管の小沢空間にヤラれた。
「ハーモニカ・ブルース」から、最後はおなじみ「明日の心だ」。原曲の2番を飛ばして、3コーラス目はオリジナルの歌詞。
小沢さんが、おーとこ40代は、と歌ってから30余年。そしてぼくも30ウン才。
短いとも、長いとも感じなかった。ちょうどよい心地よさとともに1時間半の公演が終わった。
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『しゃぼん玉座[引退興行・その五]・紀伊國屋書店提携
小沢昭一歌のステージ「唄って語って僕のハーモニカ昭和史」』
出演: 小沢昭一
ピアノ: 木藤義一
会場: 紀伊國屋ホール
スケジュール: 2008年04月22日 ~ 2008年04月30日
住所: 〒163-8636 東京都新宿区新宿3-17-7 紀伊國屋書店新宿本店4F
電話: 03-3354-0141

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