原美術館で「アート・スコープ 2007/2008」展を見てきた。
この展示はドイツと日本のアーティストの交換プログラムに基づくもので、ドイツ側の二人のアーティストのことはまったく知らないけれど、日本側のアーティストはぼくにもなじみのある名前だ。
照屋勇賢氏は前回の横浜トリエンナーレ、そして昨年のアサヒ・アートコラボレーションでも見ているし、加藤泉氏はMOTアニュアル2007の会場でギャラリー・トークを聞いた。


照屋氏の展示は、トイレットペーパーや本といった紙製品から木の形を浮かび上がらせるおなじみの作品のほかに、今回はハイヒール(フェラガモでしたね)の靴底や和包丁の柄から蝶の蛹の抜け殻がぶらさがる作品が印象的だった。キャプションによると、この蝶の種類はオオゴマダラ。
ひょっとして、と調べると、去年のアサヒ・アートコラボレーションで見たビニールハウスの中を飛び交う蝶、あれがオオゴマダラだ。ウィキペディアによると「日本では喜界島、与論島以南の南西諸島に分布する」とある。沖縄出身の氏のバックグラウンドに思いを致すべきだろう。
「Help Yourself」というタイトルの、船に備えてあるような浮き輪から伸びるロープがギャラリーの床にぐるりと円を描く作品。これは単純に見るものを突き放すようななユーモアと理解すべきなのかな?
余談だが、照屋氏の作品を見ていて、ふと窓の外に目をやると、不意にコバルト・ブルーの蝶が梢の影に飛び去った。あんな色の蝶、見たことない。また戻ってくるかと思い、しばしガラス越しに庭を見ていたのだが。
さて、加藤泉氏の作品は、これもおなじみと言ってよいのだろう、人物像をモチーフにした彩色された木彫、そして絵画。
一見して強烈かつプリミティヴな力を感じるイメージで、そのことは以前見たときの印象から変わらない。ただ、その変わらないということに、やや物足りなさを感じたのも正直なところ。また、このプリミティヴィズムみたいなものが、手だれの作家によって反復されるのを見ることに、多少の違和感を覚えないでもない。氏の作品を、ドイツをはじめ、ヨーロッパの人はどのように感じるのだろう。いずれの作品もタイトルが無題なのは、そういうことも含めて解釈を全面的に鑑賞者にゆだねているのだろうけど。
2階に上がって、今度はドイツチーム(?)の展示。
まずエヴァ・テッペという作家。「The World is Everything That is the Case」というヴィデオ作品は、スペインのどこかのお祭りの人間ピラミッドの映像を使用しているとか。音ともあいまって、人体がぐらりと崩れながら、無限に落下していく感覚。
「結束の掟」は5台のモニターを使ったヴィデオ・インスタレーション。レンブラント風の黒い背景に5人の老若男女の顔のアップが超スローモーションで映し出される。全体として何か欧州版大河ドラマみたいな物語の深みを感じないでもないが、正直よく分からない。ドイツ人だったらピンと来るのかな?
もうひとりのドイツからの作家、アスカン・ピンカーネルは、モダニズム風の四角い建物を紙に鉛筆で丹念にドローイングした作品。なるほど。ここまで無機的、機械的な成果物を取り出して並べられると、目で見たものを頭の中で組み立て、さらに手わざを通して再現するという、人体の一連のサイバネティックなプロセスをいやおうなく突きつけられる思いだ。
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「アート・スコープ 2007/2008」展
会場: 原美術館
スケジュール: 2008年06月28日 ~ 2008年08月31日
7月21日開館、22日休館
住所: 〒140-0001 東京都品川区北品川4-7-25
電話: 03-3445-0651

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