錦糸町ぶらぶら寄席 二十六回目
落語 春風亭ぽっぽ「金明竹」
講談 一龍斎貞寿「おこんじょうるり」
仲入り
落語 ぽっぽ「洒落小町」
講談 貞寿「戸田川お紺」

錦糸町のライブハウスで毎月開催されている落語会。
実は、この店に来るのは初めてのこと。
毎回どうしようかと思いながら、結局行ったことがなかったのが、今回思い切って足を向けたのは、出演者のひとりに春風亭ぽっぽさんの名前を見つけたから、ということは、あらかじめ正直に告白しておきます。

しかし、ぽっぽさんは所作がいちいちかわいい。
この会場、やたら天井が低い。というか、高座が高い。
座布団を返したぽっぽさんが、下手に戻ろうとして、天井の照明に軽く頭をぶつけた。そのときの所作が何とも言えず、いい。
すみません、このあたり、まったく個人的な趣味・嗜好で書いています。
初めてぽっぽさんを見たのは今から1年半ほど前だったか。高座に現れた彼女の姿に、何とまあキュートな噺家さんがいるものかと目を見開いた。まるで茹でたてみたいにほかほかの初々しい存在感にすぐさま魅了された。
ややあって、その次にぽっぽさんを見たのは今年の5月。林家錦平さん目当てで黒門亭に出かけたとき、たまたま彼女が前座で出ていたのだ。
開口一番のみならず、座布団返しとめくりの度にいちいち彼女が現れるのを見るだけで、高くもない黒門亭の木戸銭はじゅうぶん元が取れたと思ったものだが、さて、めくりを台に留めているピンの片方がいつの間にか外れてしまったようだ。それが、番組が進むうちに、もう片方のピンも緩くなってきて、トリ前の三遊亭歌る多さんの落語の間には、めくりがどんどん斜めに傾いてきている。
見ているこちらの気もそぞろなまま歌る多さんの出番が終わって、何も知らず座布団返しに出てきたぽっぽさんが、今にも台から外れて落ちそうなめくりを見たときの、彼女の表情ときたら!
黒門亭、そして今回のぶらぶら寄席と、落語面の成長とともに新しい一面を見せながら、不意に見せるさりげない所作の愛らしさに毎回心を奪われてしまう。
いけない、このままでは春風亭ぽっぽ礼賛の巻で終わってしまいそうだ。
一席目の金明竹を聞いて、あれれ、この人、こんなに上手かったのかと思った。
早口の上方弁で口上を言いたてるくだりもよどみない。
適当な言い方かどうかわからないけれど、女性らしい器用さを感じる。
ただ、道具屋のおかみさんは、どちらかというと山の手の奥様みたいで、もう少し下町っぽい感じを出すほうがよいように思う。
一方、二席目に登場するのは下町の長屋のおかみさんだが、こちらの噺は、やや言いよどむところがなくもなかった。
ぽっぽさんのキャラに合っているのかどうか、彼女が柄にないようなぞろっぺえな言い回しをするのをドキドキしながら聞いていたのだが(M気質?)、あるいは芸の幅を積極的に広げようとしているのか。むしろ、年若の愛らしいおかみさん、という色を出したほうが、彼女のキャラにハマるのではないかと思うが、どうか。
正直言うと、あのダジャレの連発で、どうして仕事帰りの旦那が癒されるのか、ぼくにはよくわからない。むろん、癒されないから旦那もまた家を出て行ってしまうのだろうが、そうなると、不可解なのはダジャレをほめそやす長屋の大家ということになる。
一龍斎貞寿さんは、民話を講談に取り込んでいるのは興味深かったが、一席目のキツネのおこんがアニメ声なのは少々いただけなかった。そこまではっきりと声色を使い分けなくてもよいのではないか。
もともと朗読をなさっていた方だと聞いたが、確かに講談と朗読は通じるものがあるのだろう。そうだとすれば、例えば小説の朗読で、カギ括弧の中のセリフを過剰に演劇的に読むのはぼくの好みじゃない。まず地の文章のトーンが基調としてあって、その基調から大きく外れないように、かつセリフだとわかるように色をつけて読む。その加減に朗読のコツがあるんじゃないかと思う。
演劇的というなら、むしろ落語のほうが演劇的な芸能なのだろう。
ちょうど届いたばかりの「東京かわら版」9月号で、春風亭昇太さんが「そもそも落語は、日本が生んだ演劇の1ジャンルだと思っている」と書いている(ちなみに昇太さんもぽっぽさんも同じ春風亭という亭号だが、別の一門)。
ぽっぽさんは噺家になる前は、役者を目指していたそうだ。なるほどと思う。

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錦糸町ぶらぶら寄席 二十六回目
会場: Live House PAPPY`S
スケジュール: 2009年08月29日 19:00 ~ 開場18:30
住所: 〒130-0022 東京都墨田区江東橋4-13-13 ロイヤルガーデンエイトビル 7F
電話: 03-5669-4122

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