「大当り百発百中」の話だけで、だらだらと長くなってしまった。
この映画のことについて、小沢さんは、今年の三月に文庫本が出たエッセイ集「あたく史 外伝」の中で一文を割いている。
なんでも数年前、池袋の新文芸坐の深夜興行で、小沢さんの旧作を上映する企画があったそうで、そのとき小沢さんは、上映する3作のうちのひとつを、この「大当り百発百中」にしてほしいとお願いされたのだとか。
ところが日活に確認すると、その映画のプリントは劣化して捨ててしまったという。
仕方なく小沢さんは、自腹を切ってネガから再プリントされたそうなのですが、もしかして、今回ラピュタ阿佐ヶ谷で上映されているのも、そのときのプリントなのかなあ。
小沢さん曰く、「わが青春の、元気一杯の映画です」。当時の小沢さんは30歳を少し過ぎたあたり。なんだ、今のぼくよりも年少なのか。それもまた、ショックだったりするわけですが・・・。
さて、そのころの映画館は三本立ての上映で、うち一本は上映時間の短い作品となることが多かった、ということを前に書いた。
実はこの話も、小沢さんの文章から引っ張ってきたのだが、当時の日活映画は、石原裕次郎、小林旭の全盛期。小沢さんは、裕次郎や旭の主演映画にワキとして出演しながら、尺の短い作品では、時に主役をやらせてもらうこともあったのだという。
この「大当り百発百中」も、そんな作品のひとつ。そして、今回の春原政久監督特集では、ほかにも若き日の小沢さんが活躍する作品を見ることができる。
さて、石原裕次郎や小林旭の映画では、主役たる裕次郎や旭は、その映画の主題歌を自らカッコよく歌っていた。
で、若き日の小沢さん、この「大当り百発百中」では、自分もラストシーンで歌わせてほしいと春原監督にお願いしたそうなのですが。
このラストシーンのくだりは、例の小沢さんのエッセイでも触れられているし、今回の特集上映のチラシでも、エンディングに注目、なんて書いてあるから、一体どんな場面になっているのかなあと思っていた。
が、映画を見ているぶんには、小沢さんが書いているほど「実に滑稽で」「ちゃんと喜劇映画の結末」にした、というほどの滑稽さは感じませんでした。むしろ、ごく自然にハッピーエンドが訪れたという印象。
満開の桜並木を、小沢さんは新妻役の松原智恵子と一緒に歌いながら歩いていく、というシーンなのですが、撮影のときに監督から指示された衣装が、裕次郎や旭みたいなカッコいい衣装じゃなくて、ツンツルテンの着物姿だった、ということに、小沢さんはショックだったようです。
なんでも、エンディングで自分も歌いたいという注文を、小沢さんはラストシーン撮影の前日に春原監督に突然言い出したそうなのだけど、映画が出来てみたら、その着物姿も、決して唐突ではなく、ちゃんと伏線があるようになっている。
冒頭の「こんな服(=洋服)着てたら、ぼくの詞はダメになっちゃう」というセリフとかで、小沢さん扮する作詞家の及川は着物好きっていう設定になってるんですね。だから、突然着物姿で出てきても違和感はなかった。むしろ、小沢さんカッコいいじゃない、というくらい。
演じる側の主観と、実際に映画になったものを見たときの感じ方が違うというのも面白いものですね。しかも小沢さんの中では、その記憶が40年も鮮烈に残っていたわけだ。
もちろん、歌ってる歌詞は滑稽、かつ珍妙なものでしたよ。
「君と僕とのウッフンバ、夢と希望のウッフンバ」。ウッフンバってなんだよー。