「いわゆるおでん屋」の話で思い出した。
そういえば、ついこの間、野毛でおでんを食べたんだ。あの店は「いわゆるおでん屋」といってもよさそうだ。
最初に入ったのは、野毛の飲兵衛ラリーに出かけたときだ。
飲兵衛ラリーは何回か開催されているようだけれど、ぼくは一度しか参加したことがない。第何回になるのか、とにかく、東急の桜木町駅が廃止になるという、その晩だ。


不意に出かけたのはいいけれど、実は野毛の街を歩くのも初めてだし、かなりいい時間になっていたから、もう明かりを消している店もある。
知らない街で、どの店にも入りそびれているうちに、飲み屋街の外れのほうまで歩いてしまった。体もすっかり冷えたところで、最初に入った店が、このおでん屋だった。
カウンター7、8席ほどの小体な店だ。テーブル席はない。あるいは、奥に小上がりでもあるのか、そこまではわからない。さすがに飲兵衛ラリー参加店だけあって、お客さんが入っている。カウンターにひとり分の席を空けてもらった。
カウンターの中にはマスターがひとり。年齢不詳、ひと癖もふた癖もありそうな雰囲気だ。
飲兵衛ラリーでは、ブリーズベイホテル前の受付で何枚綴りかのクーポン券をもらって、ラリー参加店でその券1枚を添えて500円を払うと、ラリーメニューのお酒とおつまみが出る。
この店で、おでんでビールか何か、飲んだんだっけ。
その後は、意を決して他の店にもどんどん入って行った。
夜中の12時半頃だったか、東急桜木町駅最終電車の発着前後の大騒ぎを見て、また野毛町に戻り、結局、その晩はジャズバーで朝まで過ごした。朝帰りの横須賀線の中でうとうとしたのがいけなかったのか、風邪をひいてしまったのは余計な話。
あれからしばらく、横浜には縁遠くなっていた。
先日、横浜トリエンナーレを見に行った帰り、せっかくだから横浜で一杯やっていこうと思い立った。11月初めくらいの金曜日だったか。ハマトリは毎週金曜日だけは午後9時まで開場している。
もっとも、横浜の飲み屋街なんて、ぼくは野毛しか知らない。マリンタワーの前からバスに乗って、野毛で降りた。
それで、結局、例のおでん屋に入った。屋外の展示を見たあとで体も冷えていたし、一度入ったことのある店は気安いということもある。
週末というのに、案外、客が少ない。連休の中日ということもあるのだろうか。カウンターの奥に二人。手前側にも一人いたが、ぼくが来てしばらくして帰った。
お店には悪いが、空いていて、逆に、こちらは少しほっとする。
適当におでんを頼み、お酒を2本ほど飲んで、錦糸町に帰った。
こうなると、ハマトリを見た後は、条件反射的に野毛でお酒を飲みたい気分になってくる。まあ、そういうほど何度も行ってるわけではないけれど、実は先週もハマトリに行った帰りに、野毛まで足を伸ばして、お酒を飲んだ。
これも、もう習慣みたいなもので、まず、例のおでん屋を覗く。
お、今夜はお客さんが入っている。
L字型のカウンターの、入口に一番近い、角の席に腰を下ろした。奥にスーツ姿の二人連れ。ぼくの左隣は、スーツは着ていないし若い人かな、と一瞬思ったけど、後でちらりと横顔を見ると、そうでもなさそうだ。ぼくを挟んで角の右側にも、サラリーマンらしい客がひとり。
みんな常連のようだ。奥の二人とぼくの右手の一人は、カウンターの対角線上に、ボーナスのことやらお互いの商売の景気のことやら、何かしら言葉を交わしている。
そのうち、マスターがカウンターの外に出て、レコードを掛けた。洋楽にうといぼくには、誰の曲か分からないけれど、昔のR&Bだ。
音楽が流れ出すと、両脇のスーツ姿のお客さんが、曲に合わせて軽く体をゆすったり、片手でリズムを取ったりしているのが、少し可笑しい。ただのサラリーマンじゃないぞ、ということを言わんとしているようにも見える。
店の中を見渡すと、ライブカフェ「ストーミーマンデー」のスケジュール表とライブの告知。映画「ザ・ゴールデン・カップス ワンモアタイム」のポスター。
壁際にはCDとレコード。書籍、特にミュージシャンの書いた本。
こんな書き方をすると、スノッブな雰囲気の店に思われるかも知れないが、決してそうじゃない。全体の雰囲気は「いわゆるおでん屋」なのだ。
こういうのが横浜なのかな、と、ほろ酔いの頭で思う。
奥の二人連れの仲間とおぼしき客が入ってきて、カウンターの対角線上の会話がいっそう賑やかになった。ぼくは常連たちの間に挟まれて、少しお邪魔のような感じだ。
飲み足りないけど、このあたりで腰を上げようか。

“野毛から” への2件の返信

  1. 今週末、日本に3日ほど帰国することになりました。
    予定ぎっしりでお会いできる時間はなさそうですが、
    居酒屋に最低一回は行ってこようと思ってます。
    2月3日は東京で出水主催の飲み会を企画して
    もらおうと思ってるので、是非その時に貴殿とも再会
    できれば・・・、と願っております。
    しかし東京は最高気温がここと30度も違うのね・・・。
    ちょっと恐怖を感じておる今日この頃です。

  2. いやー、寒いですよ。
    もっぱら内勤なもので、暗くなって外に出るとびっくりするくらい寒い。
    しかしお忙しそうですな。
    今週末は残念ですが、2月に会えるのを楽しみにしています。

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