「売国奴」「愛」

横浜美術館のゴス展を見てきたので覚え書きをしておく。
リッキー・スワローの彫刻、ドローイング。冒頭に掲げられた二本の腕の骨。これはブロンズなのか・・・。フライヤーのメイン・ビジュアルにも使われている骸骨からフジツボ(?)が生えている木彫。タイトルに「Younger Than Yesterday」とあるのを見てしばし考え込む。彫り出された寝袋の美しさ、厳粛なたたずまいに足を止める。
思うに、人間の腕の中の骨は、一本の木からレモンを持った手や小鳥の留まったギターを掘り出すのと似ている。どちらも、すでに内在しているものだとすれば。


Dr.ラクラの絵画、コラージュ。これは素直に笑うのがいいんだろう。古い写真やグラビアの人の顔や体にタトゥーを描き込んだ作品を見て、みうらじゅんのらくがおを思い出したりした。ある種、小学生的な感覚? エロだったり、グロだったり、露悪的だったり、ギャグのセンスも。永井豪的なキャラクターやスケベ図像が大画面にひしめく作品を見て、今度は一瞬、根本敬を思った。しかしやっぱり、エロの質量が違うんだろうな。
束芋のビデオ・インスタレーション。手とも足ともつかない白い物体が変形を繰り返しつつ周りをとりかこむ。それらは自分で自分をミューテーションさせているようだ。時々、局部的にどす赤黒くうっ血したようになる。
何度も現れるミシンで手(足)に針をダダダッと打ち付けるイメージが印象的。
吉永マサユキの写真。ゴス・ファッションに身を包んだ男女。若い女がほとんどだが、中には男もいる。そうか、こういう格好している男もいるのか。左右対称的に色違いの服を着た二人組の女が目立つ(俺的には「ゴス・パフィー」)。つるむのが好きなのだね。図録の吉永氏のインタビューで氏が彼らと暴走族との共通項を指摘していたのは興味深い。
そういえば、うちの近所でもああいう格好をした若い女がぞろぞろ歩いているのを目にすることがある。第一ホテルで何かその関係(どの関係だ)のイベントでもやっているのだろうか?
今回の展覧会でも、それらしきファッションの観客を何人か見かけた。大体、こうして展覧会のネタになったりするくらいなのだから、流行ってるんですよね?こういうファッションが。
疑問なのは、彼らは、どこでああいうファッションの情報を入手したり、開陳しあっているのだろう? 彼らのメディアは何か、それが何故ぼくの目に触れないのか。あれだけ流行っている、らしいのに。全然ぼくと、生活圏、文化圏が違うということなのか。
まるでアクセサリーのひとつのように、左手に幾重にも刻まれた刃物の跡。
展示室にあった写真で、ロリータっぽいドレスに身を包んだ二人組が、どう見ても男にしか見えないのがあったのだが、あれって、ホモ? ホモゴス?
イングリット・ムワンギ・ロバート・ヒュッターのビデオ・インスタレーション。この文脈に赤ん坊を置くと、赤ちゃんがまるで異形のもの、得体の知れないものに見えてくる。死や病といったものをむき出しにするのが、ここでいうゴスに共通するモチーフのようだが、ここに赤ん坊というのも入ってくる。生と死という、すべての人間に組み込まれたプログラムのはずなのに、ミュータント的で、異形だ。これはどう考えたらよいのだろう。
そして、血と肉。この皮膚の内側に充満しているはずのものが気持ち悪いとは、いったいどういうことなのだろう。
あの角砂糖はどういう含意なのか。
ピュ~ぴるの写真、そしてインスタレーション。横浜トリエンナーレでは漠然と見ていたが、そうか、この人はこういう物語の人だったのか。写真を通して彼(彼女)の物語をたどり、感情に想像をめぐらす。
そして、最後のウエディングドレス。これにはヤラレタ。陳腐な言い方で恐縮だが、こんなに美しいウエディングドレスは初めて見たと思った。完全な結婚というものがあるとしたら、こういうことではないかと思った。
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「ゴス」展
会場: 横浜美術館
スケジュール: 2007年12月22日 ~ 2008年03月26日
休館日: 木曜日(1月3日、3月20日は開館)、12月29日~1月1日、3月21日
住所: 〒220-0012 神奈川県横浜市西区みなとみらい3-4-1
電話: 045-221-0300 ファックス: 045-221-0317

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