「東急東横線 きっぷうりば」と書いてある

桜木町の創造空間9001に行ってきた。
廃止になった東急東横線桜木町駅の駅舎跡に昨年できたイベントスペースで、思えばこの駅から最終電車が出た夜、ぼくは野毛飲兵衛ラリーで飲み歩いたついでに、まさにこの場所で身動きできないほどの喧騒を体験していたのだ。
今回の「パフォーマンスの複数次元vol.2」と題されたイベント、4組のパフォーマーが出演するとのことだが、とりあえずぼくは音楽家/パフォーマーの足立智美さんを目当てに出かけた。彼のパフォーマンスを生で見るのはこれで3回目ということになる。足立さん以外は全員初見。


強風による電車の遅れのせいで、来るはずのお客さんの集まりが悪いのだとか。このイベント自体が足立さんの企画とのことで、そんなふうにMC的に場を仕切っている。定刻を若干押して開演。
一人目。Abe “M” ARIAという女性。不意に音楽は鳴り出すが、正面に姿は見えず、一瞬とまどうが、振り向くと、おそらく東横線営業中はコーヒーショップにでも使われていただろう空き店舗の中から、ガラス戸に体をこすり付けるようにして現れる。
その後は会場中を使ってものすごい勢いで痙攣的・即興的に激しく踊り続ける。まあ、これは引き芸だなあ、と思って見ている。
そのうち客席の正面に現れて踊り続けるが、2列目に座っていたぼくの前の席がたまたま空いているのを見つけて、そこに座り込んで隣の客をいじっている。なんだかやな予感。
案の定、魔の手が真後ろのぼくのほうにも伸びてきて、しばし合いの手を付き合う。
近くで見ると、実はいい年(失礼。むろん自分のことは棚に上げる)。そして実は礼儀正しい人だということが分かる。この寒い中裸足でかけずりまわっていたのに嘆息。
二組目。足立さんとNicolas Collinsという人の即興デュオ。ニコラス氏は電子部品を艤装した改造トロンボーンを操る人。
最初のパートでは足立氏はマイクを手にボイス・パフォーマンス。その隣でニコラス氏は淡々とトロンボーン。変な音出し合戦という趣き。
ぼくのいた席の位置のせいだろうが、足立氏の音がよくスピーカーから聞こえて、ニコラス氏の出す音はちょっと弁別しずらい。初めてなのだから、もう少しその改造トロンボーンなるものの真髄を味わいたかったかも。ま、これは下手のスピーカーに近い客席の人は逆のことを思ったかも知れないが。
ニコラス氏はほとんど表情を変えずにクールに演奏。一方の足立氏は、体をよじっては奇声を発し、いつもの手製の電気仕掛けの楽器を繰り出していじり倒す。こうして二人並ぶと、改造トロンボーンは改造とはいえ、普通の楽器演奏の延長に見えるのに対して、足立さんは変な人。いや、足立さんのエキセントリックなパフォーマンスがさらに目立ってしまう。
赤外線シャツ(というのか、あのシャツは。四次元ポケットとか超電磁ヨーヨーとかみたいな感じだな)のパートでサンプリング音らしき音が挿入されていたのが新鮮に聞こえた。
ここで休憩。
三組目。武井よしみち+Blue Ball Companyのパフォーマンス。ていうか、武井さんは分かったけど、Companyって誰だったんだろう。会場の袖で正太郎少年みたいなコントローラーを抱えていた女性がいたけど、あの人がCompanyだったのかな。
しかしこの人には度胆を抜かれた。
最初客席の前に現れたときは、白いワイシャツにくたびれたネクタイ、ぶかぶかのジャンバーみたいな上着を羽織って、一見さえない中年のおじさん風。なんだか警備のおじさんとかタクシーの運転手さんみたい。
その格好で、両胸につけた電球を明滅させ、まったく解読不能な言語を発しつつ、正面の小さな舞台の上で舞う。その声はお経のようでもあり、またその姿はお能のようでもあった。そこに、パイプの先に漏斗をつけたような手製の楽器を持ち出す。舞台の板を叩く足踏みの音が、独特なリズムとなり、その野生的でパーカッシブな足音に、漏斗が発する不規則な管楽器然とした音がからみつくのを聞きながら、ぼくは、ブリジット・フォンテーヌの「ラジオのように」を思い出したりしていたのだ(言いすぎかな) 。
そうして最初の装りからは予想もつかない感興に身をゆだねていると、簡単にそれは裏切られるのだ。
武井氏はネクタイを取り、シャツを脱ぎ、しまいにはズボンまで脱ぎ出し、するとそこにはボンデージ風のコスチュームが現れる。電球のソケットは両胸だけではなく股間にもあった。客席の女性に電球を手渡し、股間のソケットに装着するよう促す武井氏。
先程のしかつめらしいパフォーマンスから一転、会場は次々と笑いに包まれる。いわば、さっきのが能だとしたら、今度は狂言だ。この変容ぶりに、ヤラレタ。
勢いづいた武井氏は、スタジオのドアを開け放って、野毛の地下道入り口の前の広場に飛び出し、3つの電球を明滅させ続けながら、通行人に珍妙な動きを見せる。その勢いにあてられたぼくも、一緒に会場の外に。

そういえば武井氏も裸足だった。
最後は、今井次郎氏。「時々自動」というグループの名前だけは、どこかで聞いたことがあったが、さて、どんな人なのか。
一見、商店街の八百屋さん然とした風体(白菜だのアスパラガスだのを持ち込んでいたせいか)。短気な八百屋さん? 腰は低いのに気が短い。裏方役の女性ふたりとでパフォーマンスを組み立てていくのは、東京コミックショー的でもある。雑な東京コミックショー。
まあでも、こういう人が寄席の色物でいてもいいかもね、と思った。そう一瞬思ったが、やっぱり引き芸かなあ。
急に声を荒げたり、小道具の扱いが雑になったりするのは、わざとなのだろうが、少々あざとく見えて、これが演芸とすれば、あまりぼくの好きな芸風ではない。むろん今回は演芸という枠組みではないけど、演芸も芸術も、根本は同じだろ、という思いもある。
* * *
パフォーマンスの複数次元vol.2
会場: 創造空間9001
スケジュール: 2008年02月24日 17:00~
住所: 〒231-0062 神奈川県横浜市中区桜木町1-1-75

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