一人席が空いていたので思わず座ってしまう。
腰をかけた瞬間、はあー、と声に出そうになる。
この席が空いているのなんて滅多にない。大きなエアコンの機械のせいで、二人がけのテーブル席の片側しか椅子のない席なのだ。
相変わらずレジの前は店からはみ出しそうな行列だし、カウンターには、あと一枚のトレイを置く余裕もない。
小さな店の一番隅のその席だけ、奇跡的にぽつんと空いている。
慎重にあたりを見回して、誰もこの席の先取権を主張しそうな人がいないことを確認したのち、おそるおそるテーブルにトレイを置き、椅子に腰を下ろす。はあー。


せっかく座ったのになんだか落ち着かない気分。なんだか、いけないことをしている気さえする。
そういや、ベルクでこの前座ったのって、いつだろ。全然思い出せない。
それくらい、立ち飲みにも順応してしまっているのだ。
が、やっぱり腰掛けると楽だね。はあー。
生ビールとソーセージ&ポテトは、あっという間に平らげてしまった。
空っぽのグラスと皿を前にしたまま座っているだけで、感じなくてもいい罪悪感がいや増しになる。ふと、惰眠をむさぼる、という言葉が浮かぶ。惰座?
トレイで席を占有したまま注文の列に並ぶのに気が引けて、あっさり既得権を手放す。なんて小心な。
ぼくが席を離れて、あっという間に他の誰かが座った。
黒ビールとマイスター・ミックスはカウンターでいただく。
結局、気兼ねしなくていいのが楽なのだ。足が少々だるくても。
客は後から後から入ってくる。
次の注文をしてカウンターに戻ると、もう「スーパーくどき上手」のグラスひとつ置く場所さえない。
左手に水、右手に酒の入ったグラスを持ちながら、だらだらと飲み続ける。
ほんとうは、一杯か二杯グラスを空けたら、さっと店を出るのが粋なのだ。そんなことはわかっている。
ところが、飲み物も食べ物もいけるし、値段も高くないから、一杯が二杯、二杯が三杯と後を引く。
長居しておしゃべりをしようが読書をしようが構わないが、グラスや皿を空にしたままにしておくのは、いかがなものか。
いや、礼儀とかマナーとかを言うのではなく、これだけ旨いもののある店で、よく何も注文せずにずっといられるものだと思う。ぼくなど、限られた胃袋の容量と一日のカロリー摂取量を気にかけながら、さあ、今日はいったい何を飲み食いしてやろうかということばかり考えているというのに。
* * *
ルミネのブックファーストでベルクの本を買った。
発売からしばらく経ってしまった。
別にamazonでもどこでもいいのだが、やはりこの本はルミネで買うべきだろうという、ささやかなこだわりはあった。
新宿駅最後の小さなお店ベルク 個人店が生き残るには? (P-Vine BOOks) (P-Vine BOOks)
「新宿駅最後の小さなお店ベルク 個人店が生き残るには? 」(P-Vine BOOks)
井野朋也(ベルク店長)

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