出来心

団子坂下のおせんべい屋さんで柿の種とおせんべいを買ってきた。
この前書いた、タワーレコードのキャンペーンでスケッチ・ショウの二人と坂本龍一が店先でおせんべいやお団子を食べていた店です。
タワーレコードのポスターを見るまでは、何の気なしに店の前を通り過ぎていたのに、さっそくせんべいを買いに行って、ほお、この店かあ、などと感心しているのだから、われながらミーハーだなと思う。
といっても、さすがにせんべいを買うためだけに千駄木まで出かけてきたわけではありません。
おせんべい屋の近所にある谷中カフェに行って、また立川こしらさんの落語会を見てきた。われながら物好きだなあと思う。
取り急ぎ当日のネタの覚え書きをしておく。
まずAVにこしらさんが出演した(そうだ)ときの話をまくらにして、「出来心」。このへんにちょうちん屋ぶら左衛門さんはいらっしゃいますか。ぶら左衛門はおれの親父だよ。って、なんだかよくわかりませんが。そして二本目は、ひたちなかに営業に行ったときの話をまくらにして「寿限無」。
それから今度、吉本興業所属のヨイショなんとかという芸人(誰だ?)と、こしらさんと秋葉監督(誰だ?と思うだろうが)の三人が組んで、コントだか何だかをやるんだかどうだか、という微妙な前説が落語の間にあり。
さて、このサイトを見ると落語に行ってきたという話が多いが、落語のどこが面白いかというと、まあ、言ってしまえば、それほど面白いわけじゃない。
が、これは落語だけじゃなくて、どうも最近、年を取ったせいか、滅多なことでは大笑いしない人になってしまった。
高校生の頃や、大学に入ってすぐの頃は、決してそういうことはなかった。
お笑いの人たちの舞台を見に行って、腹をよじるようにして笑っていた。
まあこのへんの分析はさて措くが、とにかく面白いから、あるいは大笑いするから、といった理由で落語を見に行っているというわけではない。
ではなぜ落語に行くのか。
落語のいいところをひとつ挙げると、寄席や落語会に行って、混んでいて座れないという思いをしたことが滅多にない。
ふらっと出かけても、たいてい席が空いている。チケットを取るのに、何ヶ月前から苦労して予約したりする必要がない。
ではなぜいつも空いているのか。
やっぱり面白くないからですかね。
こんな結論でいいのだろうか。いや、こしらさんの落語は面白いよ(と言っておく)。

馬喰町じゃねえ

連休も終わって、今日から出勤という方も多いだろう。
今年はいい具合に祝日が並んで、カレンダーどおりでも5連休となるし、中には、前後に有給を取って11連休とした人もあるようだ。
ぼくは4月30日に有給を取ったので、29日から5月5日までの7連休ということになった。
7連休、と言葉にしてみれば、そんなに長く休んだのかと思うが、実感としては、過ぎてしまえばあっという間のことである。ま、これは多くの人がそう感じていることだろうが。
5月になって、些細なことだが、実はひとつ困ったことがある。
これまでも何度か書いているが、うちから会社まで歩いて大体5、6分で着く。
これは、自宅に近い勤め先にしたのではなく、今の仕事を始めるにあたって、思い切って勤め先に近いところに引っ越したのだ。
会社までの途中にセブン-イレブンがあって、行き帰りに寄り道していくことが多い。
何を買うかというと、朝はペットボトルのお茶やサンドイッチ、帰りに東スポとか、そんな程度だ。それでも、店の外でオーナーに出会っても挨拶されるくらいだから、こちらの顔も覚えてくれているのだろう。
さて、そのセブン-イレブンが、この4月30日をもって、閉店してしまった。
こうなると、まず毎朝の買い物に困る。
別のコンビニに寄って行こうと思うと、わざわざ遠回りして行かなければならない。これから暑くなって、外に出歩く時間を少しでも短くしたいのに。
それに、毎朝店を覗くのが半ば習慣になっていたので、会社に着いてもなんだか間の抜けた感じがして、どうも腰の据わりが悪い。コンビニというのは、習慣性のあるものだと思う。
しかし、新規に開店するコンビニは多いけれど、閉店するというのは、しかも業界のガリバーであるセブン-イレブンが店を閉めるのはあまりないことなのではないか。
どういう事情があったのか知らないけれど。
店先にオーナーからの張り紙があって、この店は畳むけれど、馬喰町で新しい店を開くからご利用ください、とある。と言っても馬喰町じゃねえ。

紺屋高尾

池袋演芸場の下席昼の部に行ってきた。目当てはトリの林家錦平さんである。
錦平さんといえば、去年の11月にも鈴本でトリを取っていたのだけど、ぼくが見に行く前に鈴本が火事になって休業してしまった。
これまで錦平さんの落語は、鈴本の独演会で1回、ねぎし三平堂で1回、そして黒門亭で2回聞いているけれど、定席のトリというのは、実は初めてだ。
今回の錦平さんのネタは「紺屋高尾」。
絶世の花魁、高尾太夫に一目惚れした紺屋の職人久蔵は、高尾との一夜のために給金を3年がかりで貯めた15両を持って吉原へ向かうが・・・というお話。
いいですねえ。うまいですねえ。
錦平さん、こういう花魁とか、女の人が出てくる噺がいいですねえ。
廓噺といえば、前に錦平さんの「五人廻し」を聞いたことがあるけど、これもよかった。
ただ、五人廻しのときは、客の5人のキャラの演じ分けの驚きというか、上手いなあっていう感じが先に来たけれど、今回の紺屋高尾は、もっと自然に引き込まれていく感じだった。
そういや、微妙に師匠の三平さんのモノマネを入れてましたな。
錦平さん、今度は6月にやはり池袋演芸場で独演会をやるらしいし、5月には黒門亭にも出るみたいだし(きのう届いた東京かわら版に出ていた)、すごく楽しみだ。
錦平さんのプロフィール、インタビュー
http://www02.so-net.ne.jp/~cozyhall/gallery/event/yose/Kinnpei1.html

ちゃんこ対決2

ちゃんこ霧島のちゃんこが、いわゆる「ちゃんこ」という感じがしたと書いたけれど、そのいわゆる「ちゃんこ」ってどんなちゃんこだよ、と聞かれたら、言葉に詰まってしまう。
ただ、大抵の人は頭の中に漠然とした「ちゃんこ像」みたいなものがあるのではないだろうか。味付けとか、具とか、食べるシチュエーションとか。
(しかしひとつの文章の中にこれだけ何度も「ちゃんこ」って言葉を使ったのは初めてだな)
ここで、正しいちゃんことは何かについて、もう少し考えてみることにする。
例えば、ちゃんこ霧島のチラシにはこういう記述がある。
ちゃんこは、相撲料理の総称で
力士の間で食べる食事の事を
「ちゃんこ」とよびます。
相撲部屋によって「ちゃんこ」は異なりますが、
多くは、鳥、魚、野菜などを鍋にして食します。
「鳥、魚、野菜などを鍋にして」食べるだけなら、どこにでもある鍋物と変らないわけで、やはりここは、お相撲さんが食べている、あるいは作っている、という点が大きいのだろう。
パールホテルの和牛ちゃんこが今ひとつのように感じられたのも、これは所詮ホテルの料理だろ、やっぱりちゃんこはお相撲さんのやってる店じゃないとねー、というバイアスがかかっていたことは否めない。
ドイツ文学者で、長く横綱審議委員会の委員長も務めた高橋義孝の随筆から引用する。
さて相撲取りがごそごそやって天丼を作ると、これは天丼ではなくて、歴とした「チャンコ料理」である。つまりチャンコ番が作ればトンカツであろうと天丼であろうと、すべて「チャンコ料理」であり、チャンコ鍋はそのチャンコ料理の一種にすぎないというのである。チャンコ料理の定義には諸説があって定説を得るに至っていないが、今紹介したのが恐らく穏当なチャンコ定義らしい。チャンコはチャン、お父ッちゃんのチャンで、コは愛称または縮小の接尾語であろう。そこで料理番のお父ッちゃんの作る料理がチャンコ料理ということになるらしい。
この定義は、上に挙げたちゃんこ霧島の定義とも矛盾はないだろう。
つまり、正確を期すなら、単に「ちゃんこ」というのではなく、お相撲さんの作る料理の総体をいうなら「ちゃんこ料理」、そのうちの鍋物を指すなら「ちゃんこ鍋」と呼び分けるべきということになる。
ちゃんこ料理屋でコースを頼むと、鍋が出てくる前に前菜も出ればお刺身も出る。
そういう鍋物以外の料理も含めて、ちゃんこ料理ということか。

ちゃんこ対決

もう2週間ほど前になるけれど、両国の江戸東京博物館で「両国にぎわい春祭り」というイベントをやっていたことは、以前も少し書いた。
このイベントの企画で「ちゃんこ対決」というのがあったのだが、なんていうことはない、単にちゃんこ鍋の出店が二軒並んでいるだけで、対決と銘打っているからといって、例えばどっちのちゃんこが美味いかお客さんから投票を募るとか、あるいはどっちの店がたくさん売れたかで勝負を競わせるとか、そういうシビアなものではなかった。言ってみれば、まあ、ぬるい企画である。
ちなみに店を出していたのは、一軒が両国駅前の「ちゃんこ霧島」、もう一軒が「両国パールホテル」。
パールホテルは、和牛ちゃんこ、というのを売りにしており、国産黒毛和牛の肉が入っている、らしい。味付けはしょうゆ味。
一方、霧島のほうは、味噌仕立てのスープに、豚肉とつくね(つみれ?)が入っている。
どちらのちゃんこも一杯5百円、生ビールも一杯5百円。千円札1枚持っていけば、うららかな春の陽気のもと、外の桜など見ながらビール片手にちゃんこが食べられる。
いま思えばいい企画でした。春だけといわず、もっと頻繁にやってくれないかな。今度はまた別のちゃんこ屋が参加してもいい。
さて、このイベントに出店した2種類のちゃんこを、もちろん私は両方とも食べている。
そこで両方食べた私が、あえて今回のちゃんこ対決の勝敗を決めるとすれば、霧島のほうに軍配を上げる。
黒毛和牛って言ったってなー、あんまり有難味が分からないし。なんだか肉そのものっていうより、和牛っていう言葉を味わってるみたいだしね。
もちろん不味いわけではないんだけど。
霧島のちゃんこは、味噌味に、あれはごまの風味なのかな。豚肉に野菜もたっぷりで、鳥と魚貝のつみれ団子もよかった。
いわゆる、ちゃんこ、という感じがしました。
ちゃんこ霧島は、両国駅前の8階建てくらいのビルで営業していて、そのうち2、3フロア除いてあとは全部ちゃんこ屋になっているんだけど、私はまだ行ったことがありません。今度行こう。

野毛飲兵衛ラリー

明日17日夜、横浜の野毛地区一帯で「第3回野毛飲兵衛ラリー」というのが開かれるそうです。
これはひとことで言うと、野毛の飲食店で朝まではしご酒しましょうというイベントで、参加者はあらかじめ5枚綴りのクーポン券を買って、それをラリー参加店に持っていくと、お店が用意するお酒一杯とつまみ一品のセット(ラリーメニュー)と交換してくれる。
一杯飲んでお店を出てもいいし、そこが気に入ったら追加でもう少し飲んでもいい(もちろんこれは別料金)。
残念ながら、私は翌朝早い用事があるので、今回は参加できません。本当に残念だ。
ここで「今回は」と書いたということは、これまで参加したことがあるのかよ、と言われそうだけど、はい、あります。前回参加してきました。
つまり、東京から野毛くんだりまで、ただ、酒を飲むためだけに出かけてきたわけです。
前回、第2回の飲兵衛ラリーは、去る1月30日に開催された。
覚えている方も多いと思うけれど、東急東横線の高島町、桜木町の両駅がこの日をもって廃止になった。野毛といえば、最寄駅は桜木町。ま、前回のラリーは、桜木町駅の終業イベントに乗っかったわけですな。
ということで、実はわたしは、営業終了前後の桜木町駅周辺の喧騒ぶりなんかも、お店を抜け出してノコノコ見に行っているわけです。恥ずかしながら。
その晩は9時ごろから居酒屋やバーを何軒かはしごして、最後はドルフィーというジャズ・バーで朝まで過ごしたのだけど、帰りに横須賀線の電車の中でうとうとしていたら、どうもそれで風邪をひいてしまったようで、その後一週間以上ぐったりとしていた。
まあだから、明日のラリーの参加はやっぱりやめておきます。
野毛飲兵衛ラリー 公式ホームページ
http://www.noge.org/nonbee/

初天神

新宿末広亭の深夜寄席を覗いてきた。
今回の深夜寄席は落語協会の順番で、出演した噺家さんは、出番の順に三遊亭歌彦、柳家小太郎、桂才紫、そして三遊亭天どんの4人。
まず三遊亭円歌門下、歌彦さんの演目は「阿武松」。
能登の国から出てきたお相撲さんが、飯を食いすぎるということで破門になり、川に身を投げようとして・・・、という人情噺。
この噺は、もう1年ほど前になるけども、ねぎし三平堂で林家錦平さんの演じるのを聞いて、ほろっとするところと笑わせるところと、古典的な感覚と現代的な感覚とが絶妙なバランスで、落語初心者のぼくは、いやあ落語って面白いもんだなあとすっかり感じ入ってしまったことがある。
たぶん難しいだろうこの噺を、歌彦さんは無難にこなしていたように思う。
次は柳家さん喬門下、小太郎さん。演目は「愛宕山」。
なんといっても幇間の表情がいい。独特の雰囲気のある人。
桂才賀門下、才紫さんは「雛鍔」。とてもいい声をしている人。
さて、「阿武松」、「愛宕山」と大ネタが続いていることからも察しのように、三人目の才紫さんのネタが終わったところで、時刻はすでに10時50分。
この深夜寄席はいつも11時で終わりなので、あれ、今日はこの三人でおしまいなのかな、と思うと、さにあらず。最後は三遊亭円丈門下、天どんさん。
普通だったら寄席のトリを取るのはとてもうれしいことなのだけど、深夜寄席に限っては、始めのほうの人が大ネタをやってしまうと時間がどんどん押してしまうので、あんまりありがたくないそうです。出番もアミダで決めるようなことを言っていたけど、本当なのかな。
天どんさんのネタは「初天神」。
前の才紫さんが「雛鍔」という子供の出てくる噺をやった後で、また子供の出てくる噺をするのは普通は恥ずかしいそうなのだけど、ご本人曰く、そこをあえてやってしまうということ。
どうなるのかと思ったら、まず時間がないということを逆手にとって、話が横道にそれては戻り、戻ってはそれ。また「雛鍔」だけでなく、その前のネタもどんどん引用して、臨機応変に噺を変形していく。最後に出てきて一番笑いを取っていた。
円丈さんの弟子が古典をやると、ああいう感じになるのかな。なるほど。いや、でも面白かった。
ということで、終演は予定を若干押して、11時10分。
ところで落語といえば、このあいだ谷中カフェで立川こしらさんの落語を聞いてきた話を書いたけれど、いまタワーレコードの「NO MUSIC, NO LIFE.」キャンペーンで、スケッチ・ショウとドラゴンの3人が店先に並んでせんべいを食っているせんべい屋さん、あそこって谷中カフェのお向かいあたりにある店ですな。今度行ったとき食べてみよう。
NO MUSIC, NO LIFE.
http://www.bounce.com/article/article.php/1228/

マイ・マイ、ヘイ・ヘイ

東京オペラシティアートギャラリーの「タイム・オブ・マイ・ライフ ─ 永遠の少年たち 」展を見てきた。
展示作品のひとつ、奈良美智のインスタレーション「S.M.L.」の「M」のほうの部屋に入ったら、この部屋の中には奈良の描きかけの作品や落書きのようなメモなどがたくさん散らばっていて、まるで作家のアトリエみたいな感じなのだけど、ちょうどラジカセでニール・ヤングの「マイ・マイ、ヘイ・ヘイ」が掛かっていて、おお、いいなあと思ってしばらく聴いていた。
それで、その曲が入っているアルバム「ラスト・ネヴァー・スリープス」をアマゾンで取り寄せていたのが届いたので、週末から繰り返し聞いているところ。
と、書いたけれど、実は順番がちょっと違っていて、正直言うと、最初はこの曲がニール・ヤングということは知らなかった。
インスタレーションの中で聴いているときに、ひょっとしてこの声はニール・ヤングじゃないかな、と思って、うちに帰ってからgoogleで「ニール・ヤング」という言葉と歌詞の文句を組み合わせていろいろ検索して調べたら、やっぱりそうだった。
その昔。今から10年以上前になりますか。
テレビ東京でモグラネグラという音楽番組を深夜の時間に帯で放送していて、何曜日だったか忘れたけれど、ある曜日の司会が、プライベーツの延原達治とフェビアンの古賀森男だった。って懐かしいなー。
この文章を書くまでは、ご両人の名前もバンド名も、申し訳ないけど10年以上頭の中からすっかり消えてましたよ。
それで、ある時、番組の冒頭で、延原氏と古賀氏の二人がギターの弾き語りで歌っていたのが、この「マイ・マイ、ヘイ・ヘイ」だった。それが非常に印象的で。
確かその回は、高橋幸宏氏がゲストで、それでビデオに撮って見ていたという記憶がある。そのビデオも実家に帰れば残っているのかな。
ともあれ、それ以来しばらく、この曲のメロディーや歌詞が頭の中から離れなくて、でも、その頃はインターネットなんてなかったし、ニール・ヤングも「ハーヴェスト」しか持っていなかったから、ずっと誰の曲だか知らないままだった。
それが、もう10何年かかって、奈良氏のおかげで再会することができたという話。

突発的本所居酒屋紀行・二軒目

(承前)一軒目と書いたということは、二軒目もある。
今の店は中途半端な気分で出ることになったので、もう少し飲みたい。
実はあと一軒、自転車で前を通るたびに気になっていた店がある。
さっきよりずっと吾妻橋のほうに近い場所で、といっても、自転車ではわけもない距離だ。
あっという間に店の前に到着。看板には「もつ焼き」とある。
自転車にまたがったまま白い暖簾の隙間から中を覗くと、きれいな白木のカウンターが見える。というより、店全体のつくりがまだ新しそうだ。
入ろうか、どうしようか逡巡して、一旦そのまま店の前を通り過ぎる。
ちょっとその辺を一回りして呼吸を整えようと思い(別にそんな必要もないんだけど)、何気なく路地に入ると、そこにも、もう一軒「もつ焼き」の文字の店があった。
しかしこの店は、いま通り過ぎてきた店とは対照的に、時代を感じさせる、というと言葉がきれい過ぎで、もう店全体を煙と脂でいぶしたような感じだ。
が、暗い路地の中にぼんやりと浮かび上がる店の明かりが、なんともいえず魅惑的で、急に方針を変更して、吸い込まれるようにこの店に入った。
戸を開けると、目の前にL字型のカウンターがあって、中で主人らしき初老の男性が串を焼いている。他にも2、3人の若い店員が仕事をしているようだ。
カウンターでは、4、5人連れの若い男女のグループが酒を飲んでいる。
店内を見回すと、思いのほかお座敷が広くて、2、30人くらいは余裕で入れそうだ。
その席がほぼ満員で、こちらにまで客の熱気が伝わってくる。
客層は、お座敷の手前のほうのテーブルで、背広姿の4、5人連れ。その隣におばちゃんが2、3人。
そして、壁を背にした奥のテーブルでは、20人くらいの宴会をしているのだけど、老若男女、それも明らかに外国人らしい姿の人も半分くらい混じっている。これはちょっと謎の集団だ。
さて、何を頼もうか。
さっきの店でお酒を飲んでいたから、お酒を続けてもよかったのだけど、初めての店で勝手がわからないから、様子見に瓶ビールを注文。
すると店の若い店員が、
「すいません、アサヒがもう終わっちゃったんで、サッポロでもいいですか」
と聞いてくる。
そうか、このあたりでは、ビールとくれば何を措いてもまずアサヒなんだな。この店からあとほんの少し行くと、浅草通りに出る。ここは吾妻橋のアサヒビール本社のお膝元だ。
料理は、何を注文しようか迷うときの定番、もつ煮込みを頼む。
程なくビールと煮込みが到着。
この煮込みは、こちらの期待通りのもつ煮込みで、豚もつと牛蒡やニンジンがあっさり目に煮込まれていて、上にネギがたっぷりとかかっている。こういうのが一番好きなパターン。
しばらく飲んでいると、奥の外国人連れの集団から、ひとりおじさんがカウンターのほうにやってきて(この人は明らかに日本人)、中の主人に、店の中で歌ってもいいかどうか聞いている。お酒が入って興に乗って、それでは一曲歌ってみようというのだろう。
話を漏れ聞くと、どうやらフランス人のグループを案内してきているらしい。
店の主人は快諾、ほかのお客さんも異存ないようだ。
おじさんがそれを仲間に伝えると、まず背の高い黒人の男性がひとり立ち上がって、にわかに歌い出した。
カラオケなどの設備はないから、もちろんアカペラだ。
聞いたこともあるようなシャンソンなのだけど、曲名とかまでは知らない。でも、テンポのいい曲で、ほかのお客さんも一緒になって、手拍子を叩いて盛り上がる。
その後も、フランス語、日本語入り混じって、何人かの独唱が続いた。
日本人のまだ若い女性だろうが、「さくらさくら」を歌っている。上品できれいな声なのだが、どことなくもの悲しい。季節的には確かに合っているけど、少なくともこの場所には似合わない感じだ。
しかしそう考えると、日本の歌で、最近のヒット曲ではなく、老若男女の誰もが知っていて、かつ宴会で盛り上がって歌えるようなアップテンポの曲というと、どんな曲になるのだろうか。
ヨーロッパだと、シャンソンにしてもカンツォーネにしても、昔からの伝統的な曲であっても、若い人も違和感なく盛り上がって歌えるような感じで、やはりうらやましい。
ご主人から「何か焼きますか」と聞かれたので、焼き鳥を焼いてもらう。2本で240円。焼きたてもあるのだろうが、この肉が、ぷりぷりとしてうまい。
ビールからお銚子に替えて、いい感じで酔っ払ってきた。
瓶ビール、お酒、煮込み、焼き鳥で、やはり1,600円くらいだったか。
このへんになると、合計金額の記憶が少し怪しい。
一軒目は小料理屋ふう、二軒目は大衆居酒屋ふうと、雰囲気はそれぞれ全然違うけれど、どれも魅力的な店だ。平日からお客さんが結構入っていることからも分かる。特に二軒目の店など、今すぐにでも、もう一回行きたいところだ。
それに、この本所界隈も、ぼくが越してきたここ3年くらいで見ても、どんどん新しいマンションやビルが建っているが、それでもこうした昔ながらの古い木造の居酒屋が、鉄筋のビルの間に生き残っているというのがうれしい。
しばらくは目標を北の方角に定めて、個人活動していこうか。

突発的本所居酒屋紀行

ここでは基本的に、時局論評のようなことではなくて、自分が直接体験したり、見聞きしたりしたことを書こうと思っている。
そうなると、どうしてもお酒を飲んだとか飯を食ったとかいう話が多くなってしまうが、まあそういう生活を送っているということで、ご容赦願いたい。
よく、自分のサイトに飲み歩きの体験記を掲載されている人がいるが、店の名前はもちろんのこと、注文した酒や肴の種類や金額まで克明に書き残されていることに驚く。
ぼくの場合、何という店で何と何を飲み食いしたということは、あまりはっきりと書かないことが多いけれど、それは、あえて明記していないというよりは、まず自分が無頓着でそうことをあまり気に留めていないということと、酔っ払ってしまって結局よく覚えていないということでしかない。
例えば、最近何度か書いている、うちの近所にあるおばあさんが一人でやっている居酒屋、その店の名前さえ、正直言ってよく覚えていない。看板は出ているから、店の前に行けば、ああそうだったということになると思うのだが。
ということで、今朝も少し前夜のお酒が残った頭でキーを叩いている。
帰り際に会社でビールを2、3本飲んだら、勢いがついてしまうというか、うちに帰って着替える間も気もそぞろに、こうなったら今夜は飲むぞ、という気持ちになる。
さて、これまで近所で飲むとなったら、あまり深く考えずに両国や錦糸町のあたりに出かけていたのだけど、そういえば吾妻橋のあたりにだってたくさん店はあるし、そんなに距離が違うわけでもない。むしろ近いくらいだ。
それで、今夜はうちを出て北のほうに向かうことにした。
一軒目、春日通り沿いにある古い木造の店。白い暖簾と赤い提灯が灯る。店の名前は、やはり覚えていない(すみません)。前からこの店のことは気になっていたけれど、入るのは初めてだ。
勇んでガラガラと玄関を開けると、いきなり店のおばちゃんから「定食はやってませんけど、いいですか」と聞かれた。なるほど、定食屋と間違えて入ってきたと思われたか。ということは、あまりふりのお客がひとりで酒を飲みにくるという店でもないのだろうか。ま、そのときはパーカーにジーンズというラフな格好だったし、スーツのまま行っていればまた違ったかもしれない。お酒をいただきますから、と答えて中に入る。
店内は8人掛けくらいのテーブルが二つ、それから小上がりのお座敷がある。厨房は店の奥で、カウンター席はない。店員はおばちゃんが二人で給仕をしている。厨房にはまだ誰かいるのかもしれない。
手前のほうのテーブルに腰を落ち着けた。テーブルの上には、前に座っていたお客さんのものか、お皿やとっくりがいくつかまだそのままになっている。
平日の夜というのに結構お客さんが入っていて、奥のテーブルには背広姿のおじさんが二人、もうかなりの数のお銚子を並べている。障子の陰でよく見えないが、小上がりにも二組ほどお客さんが入っているようだ。テレビでは巨人中日戦を流している。
まず瓶ビールを頼むと、「キリンでいいですか」と聞かれるので、咄嗟に、ええ、はい、と答える。
おばちゃんがテーブルの上のお皿を片付けて、ビールとお通しの柿ピーを持ってきた。
さあ料理だが、壁に品書きを書いた紙が張ってあり、きれいな白い紙だから、毎日か、少なくとも定期的に書き換えているのだろう。値段は高くもないが、さして安いわけでもない。例えば、肉豆腐が780円、菜の花の辛子和えが550円、といったところ。
肉豆腐780円というのは判断に迷うところだが、まあ無難な料理だろうと思って注文。
しばらくして、3人連れの客が入って来て合席になった。
ビールを三分の二ほど飲んだ頃に肉豆腐到着。丼鉢一杯に入っていて、思ったよりボリュームがある。これなら780円でも納得かもしれない。あと、この店の七味唐辛子はなんだか風味がいい。ビールが終わったのでお銚子を頼む。
小上がりの客が一組帰ったので、後から来た相客はそちらに移った。
店のおばちゃんと相客の会話。
「ビールはキリンとアサシ、どっちにする?」
「やっぱりアサシだろ、地元だから」
そうか、このあたりはアサヒビールの地元だった。
肉豆腐でお酒を飲んでいると、玄関が開いて、これから10人で来るが大丈夫か、という声が聞こえる。おばちゃんはゆっくり召し上がってください、と言うが、そろそろ潮時だろう。
お勘定をお願いすると、ビールとお銚子、肉豆腐で1,600円ほどだったか。