昨夜は少し横になるだけのつもりで、結局そのまま寝入ってしまった。今朝はさすがによく寝た。燃えるゴミを出してから、遅くならないうちに外出。
半蔵門へ。駅を出たところにあるサンマルクカフェで朝飯がてら、今日の演目をざっと予習してから、国立劇場に。
9月文楽公演の千秋楽。第一部は「寿二人三番叟」から。思えば、今月の公演はコロナ後初の文楽公演で、その皮切りに劇場の再開を寿ぐのがこの演目。楽日に見るのは順序が逆になってしまったか。
二人の三番叟の後ろ姿に、両袖から肩にかけて見えるのは羽を広げた鷹だろうか。ダイエーホークスの鷹ジャンを思い出す。
ふと、先日のOriHimeに三番叟をやらせたらどうかな?
四竿の三味線のアンサンブルと人形遣いの足踏みの太いリズムに身をゆだねていると、次第に腹の底から高揚感が沸き上がってくる。
続いて「嫗山姥」。源頼光の四天王のひとり、坂田金時の生誕にまつわる物語。讒言を受けて行方不明となった頼光の許婚、沢瀉姫の無聊を慰めるために姫の館に召された煙草屋源七、実は坂田時行とその妻である遊女の八重桐が予期せぬ再会。二人の浅葱色をあしらった衣装が目に鮮やかに映る。
切腹した時行の情念を受けて鬼女と化した八重桐が、姫を奪いに来た敵方を追い払う。この八重桐の人形のかしらが、立ち回りの途中で「娘」から「角なしのガブ」に変わるのだが、結構目を凝らして見ていたのに、どんな仕掛けでかしらが入れ替わるのか、まったくわからなかった。まさに人が鬼に変身、変化するように、かしらが変わった(桐竹勘十郎演)。実は、その前にも顔貌が変わったように見えた一瞬があったのだが、すぐに娘の顔に戻っていたから、私の見間違えなのだろう。いや、それとも、その時も一瞬だけかしらを替えていた?わからない。
一部と二部の間に、小劇場二階の食堂に行ってみた。実はこの食堂に入るのは初めて。せっかく文楽を見に来てるんだから、ここは大阪ふうに、きつねうどん。まあ、大阪の味とは違うだろうけど、気分だけでも。
しかし食堂はガラガラ。こんなに客が来なくて商売がやっていけるのか心配になるほど。劇場の客入れを通常より減らしているせいもあるだろうが、多分それ以上に、団体客が来ていないんだろうな。空いているお陰で、ゆっくりしても気兼ねが要らないのは有難いが。
第二部は「鑓の権三重帷子」。「鑓の権三」と呼ばれる鑓(やり)の名手で、美男子として評判の笹野権三が、茶道の師匠である浅香市之進の妻、おさゐとの間で不義をはたらいたとして、おさゐと共に追われ、最後は盂蘭盆会で賑わう京の伏見の橋の下で、市之進らに討ち果たされる。実はこの不義は無実なのだが、一旦は立身出世に近づいたと見えた権三が、運命を転げ落ちるように死に向かっていく。
物語の設定では、権三は数えの25歳、おさゐはその一回り上の37歳。市之進はおさゐのさらに一回り上の49歳。そして市之進とおさゐの娘、お菊は権三の一回り下の13歳。ちなみに、ここに挙げた全員が同じ酉年生まれ。
この浄瑠璃を原作にした篠田正浩監督の1986年公開の映画『鑓の権三』では、権三は郷ひろみ、おさゐは岩下志麻が演じたのだとか。ああ、なるほど。34年前の郷ひろみと岩下志麻の姿を想像すると、この物語の権三とおさゐの関係が腹に落ちる気がする。映画も機会があれば見てみたい。
権三と言い交わした仲の娘、お雪がオレンジ色の着物に身を包んで現れる。この色は目に新しい。お雪から二人の紋を刺繍した帯を受け取る時に、さりげなくお雪の肩に手をまわす権三の所作。いかにも女慣れした風情。
お雪の兄、伴之丞と権三が馬比べをして伴之丞は落馬。「馬から落ちて落馬」という言い回しは、「頭痛が痛い」と並んで、よく知られた重言だけど、そうか、この浄瑠璃が原典だったのか。
自身の娘お菊を権三と添わせようと考えていたおさゐ、権三に言い交わした仲の娘がいることを知った時の目が実に怖い。
市之進の留守の間に、茶の湯の秘伝の巻物を見せてもらおうと、夜更けの数寄屋におさゐを訪ねる権三。しかし、よりによって、どうしてこんな時に、お雪から渡された帯を締めてくるかね。
話は飛んで京橋の場面。武芸の達者のはずの権三が、自ら刀を捨てて切られにかかった。そして先に倒れたおさゐの上に重なるように、権三も最期を迎える。そうか、外題の「重帷子」は、二人の衣服が重なるさまを指しているのか。
無実の不義といいながら、実は権三もおさゐに情があったんだろうか。それとも、二人の間に真情があったかのように見せるのは、市之進に面目を立たせるための、権三の武士としての最期の一念だったのだろうか。
半蔵門から一旦曳舟に戻り、プチパリジャンに寄って石川君にストリートピアノのチラシを託す。コーヒーを飲みつつしばし雑談の後、錦糸町に移動して所用。
楽天地で古本市を物色していたら、猫六のマスターに声をかけられた。
楽天地スパに。
サウナにいる間に雨が降り出したらしい。小雨に濡れながら帰った。8,514歩。