初芝居

半蔵門へ。国立劇場の初春歌舞伎公演に。

正午開演だから、早めに出てどこかでゆっくりお茶でもしてから会場に向かいたいところだが、どうしてもぎりぎりになってしまう。

国立劇場は至るところ新年の装いである。

国立劇場の初芝居といえば菊五郎劇団の復活狂言である。今年は「四天王御江戸鏑(してんのうおえどのかぶらや)」。2011年1月に約二百年振りに復活上演した演目の再演とか。私は前回を見ていないので比べられないが。

行きしなの電車の中で慌てて頼光四天王の世界を予習。

序幕の終盤。花道からせり上がって登場する菊之助丈。息をのむ美しさである。

二幕目、第一場。女郎屋の場面にコロナ禍の当世風俗をこれでもかと入れ込む。正月ならではでしょう。菊之助丈の女郎花咲はじめ一同で達者なダンスを見せるが(さすがに菊五郎丈は踊らなかったが)、申し訳ないが見ているこちらが流行に疎いので、ダンスの元ネタが分からない。ナントカイーツのピザの配達にそれを止めに出た国立劇場の受付係、定式幕を引く大道具さんまでが菊五郎丈演じる鳶の頭綱五郎の「お土砂」の洗礼を受けるドタバタで、菊五郎丈自ら幕引き。

二幕目、第二場。綱五郎と頼光四天王のひとり渡辺綱は瓜二つ。所在不明の渡辺綱の身替わりを務めることになった綱五郎は慣れない武家言葉に四苦八苦、ええいままよと町人の地金を出すが、実はこの綱五郎こそ実は渡辺綱本人という趣向。

言うまでもないことなのだろうが、菊五郎丈の声のよさ、口跡のよさが耳に快い。比べては申し訳ないけれど、松緑丈の台詞は時々聞き取りにくいところがある。

この場面で松緑丈が演じるのは、頼光の配下の平井保昌を騙った盗賊の袴垂保輔。何故か松緑丈は泥棒がはまる。そして保輔が自害した後で現れる本物の保昌。実は保輔と保昌は兄弟。この二役はそう来たかという感じ。

大詰。菊之助丈の土蜘蛛の精の宙乗り、なぎなたを手にした松緑丈の良門と捕手の立ち回り、といった場面が目に残った。

頼光四天王の世界に馴染みの薄い(私のような)客も、理屈なしに楽しめる正月らしい芝居だったと思う。

まだ早いので、裏手の伝統芸能情報館に回って、「国立劇場の養成事業 心と技を伝えた50年」の展示を見る。本事業の出身者が伝統芸能の各分野で活躍していることは承知だが、とりわけ寄席囃子では寄席興行で演奏しているお囃子さんの9割が本事業出身というグラフを見て驚く。

余談だけど名題昇進の挨拶分中の「扨」という漢字は読めませんでした。

半蔵門から錦糸町に戻って、楽天地スパに。

休日の夕刻だけあって、それなりに客が入っているが、心なしか皆さん行儀が宜しい。気がつくと、サウナ室のドアに「私語厳禁」と大きく書かれた紙が貼られている。客入りの割に静かなのは、この張り紙の効果もあるのだろう。

本当は、こんな頭ごなしな言い方はされたくない。が、サウナ室内で喋る客が目障り、耳障りだったことは一度や二度ではないので、これもやむを得ない。

仲間うちで話ができないとサウナから離れていく客がいるとすれば、それまでのことである。これをきっかけに、静かなサウナの良さに気づく客が少しでもいればいいと思う。

6,747歩。