しゃきっと早起きして午前のうちに出ようと思っていたのに、結局昼過ぎになってしまう。
迷ったが近所を歩くことにした。曳舟川通りから明治通りに入る。
居酒屋の休業の張り紙が目に付く。夜8時までしか営業できないのなら、いっそ店を閉めてしまおうということか。10時と8時ではずいぶん違うんだなと思う。居酒屋ではないが、向島百花園まで休園している。
白鬚橋を渡る。川面の光が眩しい。
玉姫稲荷神社に。どこからか猫の鳴き声が聞こえる。
近づくと逃げるそぶりをするわりに、私の前でごろりと横になった。
土手通りを越えて、千束通りに入る。馴染みの銭湯は営業時間前だが、もう待っている人がいる。
少々時間をつぶしたい。ふと思い立って、吉原弁財天の向かいの喫茶店に入った。
この喫茶店には、ずいぶん前に一度だけ入ったことがある。もう三、四年は経っているだろうか。ここのママは、かつてこの店の近くにあった小料理屋で働いていたことがあって、古今亭志ん朝師といった噺家連中もその小料理屋の常連客だったという話は、前回来た時に聞いた。
お客は私だけ。数年前に一度来たきりだから、私のことを覚えている様子はなかったが、世間話をしているうちに、落語の話題になった。
柳家小三治さんとママが一緒に写っている写真や、金原亭馬生師一座の鹿芝居の後の集合写真を見せてくれた。後者の写真で、白塗りの噺家たちに化粧を施したのはママだったとか。坂東三津五郎丈の姿も見える。
毎年二月の国立演芸場では、馬生師の鹿芝居が恒例になっている。私も二、三度見に行ったことがあるが、実は、前回この店を訪れた時に、鹿芝居の面白さをママから聞かされたのがきっかけで見るようになったのだ。ところが、今年は例の事態のため鹿芝居は上演されず残念。
テレビでは新規感染者数の速報。コロナで開店休業よ、と笑うママを後に、店を出た。
浅草演芸ホール、正月初席の楽日。第四部から入ろうと思っていたが、第三部との入れ替えは行っていないというので、第三部の途中から入れてもらうことにした。ちょうど16時。高座では鈴々舎馬風師が元気な姿を見せていた。
落語 鈴々舎馬風
二世噺家の人物月旦。正蔵師の息子のたま平さんと、最近楽屋入りした、たい平師の息子のさく平さんは異母兄弟らしい(違います)。
漫才 ホンキ-トンク
落語 古今亭文菊
いやらしいお坊さん。いわし売りの魚屋と、ふるい屋の小噺。
落語 古今亭志ん彌
「浮世床」の将棋のくだり。
漫談 林家ペー
ぺーさんひとりでギター漫談。東洋のラスベガスこと赤羽。エレファントカシマシ娘。
落語 春風亭一之輔
東武野田線ディスり。「看板のピン」。
落語 林家しん平
狛犬?の被り物を被って客に柏手を打たせる。
浮世節 立花家橘之助
早弾きに前座が叩く太鼓が合わなくなるが、合わないように叩くのも芸か。
落語 三部主任 林家正蔵
関節炎で膝が痛いと言って「あいびき」を使っていた。昨日の鈴本では使ってなかったと思うけど。「新聞記事」。
休憩時間に売店で「東羊羹」というのを買った。すなわち、東洋館の羊羹。本来東洋館だけで販売しているものを、正月に限って演芸ホールでも売っているのだそうだ。中身は井村屋の羊羹。外箱の裏はおみくじになっていた。
落語 入船亭扇蔵
落語 柳家小三太
落語 柳家〆治
漫才 すず風にゃん子・金魚
落語 入船亭扇好
落語 柳家喬太郎
「農耕接触」。
寿獅子 太神楽社中
落語 林家たい平
こん平師の思い出話。
落語 金原亭馬遊
たい平師が終わった後で帰る客をぼやいていたら、着替えの途中のたい平師が高座に出てきて馬遊師をなだめる。二人はたい平師が少し先輩だが同時期に前座修行を勤めた仲とか。
ものまね 江戸家小猫
フクロテナガザル。
落語 柳家福治
「司」と「同」
紙切り 林家正楽
「羽根つき」から、リクエストに応えて「鬼滅の刃」。
落語 柳家三三
「道具屋」。サゲは正蔵師いじり。
落語 金原亭伯楽
「猫の皿」。枯淡。
漫才 笑組
ネタは演らず、南京玉すだれ。
落語 金原亭馬の助
ネタは演らず、百面相という昔ながらの寄席芸を見せる。初席は、顔見世の興行だから、短い持ち時間でかわるがわる演者が現れて、少々慌ただしい。ただ、長い噺が聞けない分、短い時間でできる余芸が見られるのは楽しみでもある。
漫談 東京二
ネタは演らず、ハーモニカと歌唱で「ベサメ・ムーチョ」。比較的若い客席(年寄りはコロナを恐れて来ないのか)は反応薄。私もイントロだけでは曲名は出ない。
落語 柳家小さん
落語 初音家左橋
「葛根湯医者」から、シュウマイが蓋に貼りつく噺。
ジャグリング ストレ-ト松浦
舞台に七本棒を立てて皿回し。もう一本自分の手で持って、計八枚の皿を同時に回す。
落語 桂文生
落語 三遊亭吉窓
「狸の札」。
漫才 ニックス
落語 月の家小圓鏡
落語 五街道雲助
「勘定板」。
落語 蜃気楼龍玉
「蔵前駕篭」。
落語 柳家権太楼
夫婦がゴルフの趣味を持つ話。
マジック ダーク広和
シカゴの四つ玉。
落語 柳家小傳枝
「牛ほめ」。
落語 柳家喬志郎
「きつねつき」。
落語 柳家花緑
「あたま山」。
粋曲 柳家小菊
落語 四部主任 柳家さん喬
「妾馬」。
さん喬さんは袴を着けて現れた。ということは、これから口演する噺にはお侍が出てくる、ということを、実はつい最近まで知らなかった。本式の落語好きからは笑われるだろうが。
年始にYouTubeの米朝チャンネルで、米紫・吉の丞の㊙ワールドニュースを見ていると、桂歌之助さんのことを、袴の着かたが分からない、といってネタにしていた。その中で、例えば「佐々木裁き」のような演目を口演する時は袴を着ける、ということを二人が話しているのを聞いて、そうか、と膝を叩いた。なるほど、噺家が高座で袴を着ける着けないは演目で決まるのか。長年落語を聞いていても知らないことはたくさんあるものだ。
終演時刻は忘れた。幕の向こう側から三本締めをする声が聞こえた。
千束通りまで戻って、馴染みの銭湯に。
通り沿いの家の硝子戸の中に猫がいる。目を丸くしてこちらを見た。
16,001歩。