梅干しとサイレン

午前中に一時間程隅田川沿いを散歩。

草や木が小さな花を咲かせている。こうやって散歩しなければ顧みることはなかった。多くの人にとってもそうだろう。

花は人に見られての花なのか、それとも花として花なのか。あれこれ思いを巡らすが、どうにも纏まらず言葉にするのを諦めてしまう。

常夜灯の背後に蝉の脱け殻を見つけた。近づこうとする足許を蝉が一匹ジジジと飛んでいった。この脱け殻の元の入居者かは分からない。

大きく横書きで「本所…」の後は何と書いてあるんだろう。亀沢町や横網町といった地名も読める。

いつもは隅田川の左岸を桜橋のたもとで川岸に降りてから白鬚橋方向に、つまり反時計回りに歩くことが多いのだけど、なんとなく今日は逆向きに、つまり桜橋を渡ってから右岸を白鬚橋に向かって歩いてみる。そんなささやかな違いでも、普段目に留まらない景色がある。

ずいぶん遅くなってから、散歩は抜きにして、自転車で銭湯に出掛けた。

両手で大きくお湯をかき混ぜながら湯船の中を歩き回るおじさんがいて、迷惑だなという顔をしていたら、程なく上がっていったので、それで静かになった。

この銭湯は天井が高い。他に客はいないし、いつにも増して広々として感じる。これだけの広い空間を独り占めできるのは、公共空間(銭湯もそうだ)ならではの贅沢さだろう。他には、例えば木場の東京都現代美術館の人気のない展示室でも同様の感覚が味わえる。

消防車がサイレンを鳴らして走っていくのが見える。どうやら近いようだ。心なしか、マスク越しに煙のにおいを感じる。

いかにも野次馬だけど、ちょうど自転車でもあるし、消防車が集まっているあたりまで行ってみた。消防隊の人がマイクを取って「浅草○丁目で火災の通報でしたが、只今火災の事実を確認中です」と言ったのは、火事は大したことがなかったか、あるいはいたずらだったのかも知れない。

そうなると、さっき私がマスク越しに感じた煙のにおいは何だったのか。梅干しを思い浮かべると唾が出る。サイレンを聞くと煙のにおいがする。

巣ごもりの日はこんなものか。6,300歩。