亡者

巣ごもり日。辛うじて起き出してゴミ出し。曇り空。昼飯を買いに外に出たら、かすかな雨粒を感じた。

暗くなってから外出。曳舟文化センターの桃月庵白酒・柳家三三両師の二人会に。もともと4月に予定されていた公演の振り替えで、コロナ以前に予約していた公演が払い戻しになったのは何件かあったが、振替公演というのは、今のところこれだけではなかったかと思う。

実は曳舟文化センターに来るのは初めて。立派なホールで、舞台の幅はそうでもないが、天井がずいぶん高い。これまでこのホールを落語会に使っているのは聞いたことがなかったが、興行主に見落とされていただけかも知れない。いい場所を見つけた。ところが、白酒さん曰く、このホールは来年から改修に入ってしばらく使えなくなるのだとか。

開口一番 三遊亭ごはんつぶ「子ほめ」

柳家三三「五目講釈」

桃月庵白酒「首ったけ」

桃月庵白酒「馬の田楽」

柳家三三「粗忽の釘」

終演予定は21時10分だったけど、少し押したか。今日はこれから、夜の散歩はパスして、久し振りに北千住のお気に入りの銭湯に行ってみようという心づもりである。

東武線内で事故があったらしく、半蔵門線との直通運転は休止していたが、北千住に出る分には構わない。

さて、件の銭湯に着くと明かりがついていない。玄関に掛かった板には「ぬ」の一文字。お湯を「ぬ」いた、の意である。月曜定休と思っていたら、月曜が祝日の場合は営業して、代わりに翌日の火曜が休業になるようだ。残念。

そこで、駅から少し歩くが、8月の終わりに一度行ったきりの別の銭湯に行くことにする。

小雨が降ってきたけれど、すぐに傘が必要な程ではない。途中、大門商店街というところを通った。してみると、このあたりは花街だったのだろう。時代から外れたような街並みが街灯の光を受けて小雨に煙る様子には興趣がある。

玄関に掛かった板には「わ」の一文字。こちらは、お湯が「わ」いた、の意になる。

女湯は知らないが、男湯には銭湯絵が二枚ある。ひとつは正面高く掲げられた富士山の絵。よくある画題だが、富士山を旅客機が横切ろうとしているのが珍しいとは言える。

しかし、もっと珍しいのは、向かって左手にある変わり湯と水風呂の上に掲げられている地獄絵だろう。これには前回来た時に気がつかなかった。何かの複製画だろうが、閻魔様を中央に、亡者たちが地獄の鬼から様々な責苦を受ける場景が繰り広げられる。ぶくぶくと泡立つ水風呂に浸かると、ちょうど頭の上に釜茹で地獄の図が来る格好になる。これは、水風呂がぬるいだの狭いだのと不平ばかり言う水風呂亡者への戒めかなと思う。

Y字路に出くわして行先に迷った。人生の行先にも迷っている。私は自分の欲望の亡者だ。

9,056歩。夜の散歩はパスするつもりだったのに、思いの外歩いた。