策略

駅ナカでパンとコーヒーの朝飯。曳舟から永田町で有楽町線に乗り換え、地下鉄赤塚まで。

地下鉄赤塚という駅は初めて降りるが、少々違和感のある駅名ではある。頭に地下鉄と付いた駅は、この駅と隣の地下鉄成増駅のほかにあるのだろうか。

調べると、頭に地下鉄と付く駅は、当駅と地下鉄成増の二駅だけ。当駅は以前は営団赤塚という駅名だったのが、営団が民営化されて東京メトロになった時に、地下鉄赤塚という駅名に変わったらしい。地下鉄成増も同様。

東京メトロの会社名は、東京地下鉄株式会社である。だから、頭の地下鉄は、会社名のつもりなのかも知れない。会社名を冠するということでは、京成曳舟とか京急蒲田とかと同じようなものだが、地下鉄というのが会社名ではなく普通名詞のように感じられてしまうから、しっくりこないのだろう。ここはむしろメトロ赤塚でもよかったか。

地下鉄赤塚駅を出て北に歩くと、程なく東武東上線の下赤塚駅に出くわす。こちらのほうは赤塚駅ではない。てっきり東武線にも赤塚という駅名があるのかと思っていた。地下鉄成増のほうは、先に東武線に成増駅があったから、それと区別するために頭に地下鉄と付けたという理屈が成り立つ。

それなら地下鉄下赤塚駅にしてもよかったのではないかと思うが、同じ駅名にするには微妙な距離ではある。当方の近所でいうと、東武線の牛田駅と京成線の関屋駅のようなものだろうが、むしろ牛田と関谷の間のほうが近い。一方で、地図を見ると下赤塚の下に赤塚があるというのも難しい。駅名ひとつ決めるのにも、地域外の者には伺い知れない事情があるのだろう。

赤塚というのは歴史のある地名らしい。赤塚餅というのも売っていた。

通りがかりのコンビニの入口に、トイレの貸し出しを中止する旨の張り紙がされているのが目に留まった。このような掲示は他のコンビニでもしばしば見かけるが、ふと、ここで貸し出しという言葉を使うのは正しいのだろうかと思う。

本来「貸し出し」は「図書館の本の貸し出し」のように、何かをある場所から外に持ち出して使わせることを言うのではないか。「トイレの貸し出し」といっても、コンビニのトイレを店の外に持ち出して使うわけではない。貸し出し用の携帯用トイレでも用意してあれば別だが。それではどう言い換えればよいか。中止という難しい言葉を使うからいけないので、ここは「トイレはお貸ししません」で構わない。

ずいぶん立派な門のお寺が見えてきた。松月院といって、このあたりでは由緒のあるお寺らしい。

境内に印象的な形の銅碑があった。

高島秋帆という名前は知らなかったが、幕末の砲術家で、日本で初めて西洋式の砲術訓練を行った人だという。砲術訓練が行われたのは今の高島平のあたりで、高島平の地名は、この人の名前に因んでいるのだとか。板橋区では地域ゆかりの偉人として扱われているのだろう。

板橋区立美術館は何度か訪れたことがあるが、これまでは毎回、都営三田線の西高島平駅から歩いていた。確かに一番近い駅はそうなるのだが、今回の赤塚からのルートのほうが、歩いていて楽しい。

以前はもっと薄暗い感じの建物だった気がするが、ずいぶん見違えた。聞くと、三年ほど前にリニューアルしたということで、ということは少なくとも三年もご無沙汰していたのか。

「さまよえる絵筆―東京・京都 戦時下の前衛画家たち」と題された展示を見た。

戦前の日本で前衛画家たちは過酷な社会情勢の下でも制作活動を模索していた。日本や西洋の古典芸術といった、当時許された芸術の表現や活動に入り込むことで、むしろ表層的な前衛芸術受容を超えて、芸術の核心に接近しようとしていた。ここには日本の固有性を追求することで、却って普遍性に至る逆説がある。

戦前・戦中期は概して前衛芸術運動の断絶期として語られていただろうし、作家たちの表現も表面的には転向と捉えられることが少なくなかったと思うが、戦前から戦後の前衛芸術を連続体として捉える見方を提示されたように感じた。

むろん、画壇全体というより個々の画業に着目すべきだろうし、当時の状況の困難さは繰り返し確認する必要はあるけれど。

地下鉄赤塚まで戻って、有楽町線で東池袋に。

タイムズ スパ・レスタに行ったら、男性客だけ入場制限をしていた。40分から一時間待ちになるという。レスタで入場制限に遭うのは初めて。待つ気はしないので、またの機会に。

入場制限が分かっていれば東池袋で降りることはなかった。ついでに、レスタの隣のすき家で牛丼を食うこともなかった。

池袋から山手線で鶯谷へ。金美館通りから一葉桜・小松橋通りに入る散歩道に。一葉桜の花もくたびれてきた。

いつもの銭湯に寄った。あちこちに「黙浴」を呼び掛ける張り紙がある。最近目にするようになった言葉だ。

馴染みの飲み屋に。

緊急事態宣言が明けてからは定休日を除いて連日夜9時までの営業になっていたのが、今度の週明けから、例のまん防というのが始まるので、夜の営業はランチ営業日だけの週三日に戻すという。土曜日はランチ営業日ではないので、この次に土曜の夜に飲む機会は当分なさそうだ。

今日は試食会ということで、新しいつまみが次々出てくるので、お酒が進んで仕方がない。あるいはそういう策略だったか。

千鳥足で桜橋を渡った。18,714歩。